恐怖の村でもほたるさん

白木レン

アーカイブ47『エピローグ』


 私がそこで目にしたのは、常軌を逸した光景であった。


 神社の本殿で見つけた地下通路の、さらにその奥。

 通路が巨大な洞穴へと至ったその場所に、人々は集っていた。


 いや、あれは本当に人なのだろうか。


 そこに蠢くのは異形の村人であった。赤銅の肌を持つ者、片腕だけ何倍も肥大している者、額からツノのような骨が突き出た者、額に退化した魚の眼のような器官を持つ者……。皆何かしらの異形をその身に宿していた。


 ああ、だが違うのだ。

 私を真に恐れさせたのは。


 私が真に恐怖したのは、彼らの崇める偶像であった。


 るかわい、ほーたー

 るかわい、ほーたー


 彼らは私達には了解不能の、だが明らかに奇矯な意味の呪文を口にしながら、持って来たクチナシの花をその偶像の前に供えていく。


 それはまるでキリストが磔られるような巨大な十字架。

 だがそこに掲げられるのは、聖者などではなかった。


 ああ、なんてことだ。


 それは銀髪の少女の偶像であった。

 左脇腹をえぐり取られ内臓がこぼれ出た少女の偶像であった。


 その偶像の精巧さに、私は目を疑う。それはまるで本物の遺体のような、ある種の艶めかしい血と内臓の輝きを備えていた。


 だが私はその馬鹿馬鹿しい予感を一蹴する。

 そんなわけがない。もちろん作り物に決まっている。


 ああっ、だが理解できない!


 一体どういう発想なのだ!

 一体どんな冒涜的な歴史を歩んだら、内臓がこぼれた少女を崇拝する文化が生まれるのというのだ!


 混乱の極みに至っていた私は、思わず岩陰から身を乗り出していた。

 それが災いした。


 異形の村人のうち一人が、突然こちらを振り向いたのだ。


 目が合う。


 その両目と、額の異形の瞳。

 全てが私をとらえていた。


 脱兎のごとく逃げ出した私の背後で、怒りの叫び声が挙がる。

 私を捕まえんと走り来る音が聞こえる。


 ああ、逃げなくては。

 私が見たものを仲間に伝えなくてはならない。


 口無しにされる前に。


 ああ、だがダメだ。

 間に合わない。


 私の背後に、異形の手が迫るのを感じた。










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