どうして 3


 視界がぐらりと傾いた。


「え――?」


 背中に、衝撃が走った。

 何か硬いものが、背中いっぱいに叩きつけられたような感触。


 ――否。


 何かが弾けたのだ。


「――かっ」

「あんたたちは翼を過信してるんだよ」


 意識が飛ぶほどの衝撃でもなければ、耐え難いほどの痛みもない。殺傷を目的としたものではない、小規模の爆発だ。

 だが、どうやって。


 いや、なんで――?


「翼の触覚は人体の皮膚に比べてかなり鈍い。力を込めて握ればもちろん気づくことはできるけど、いざこざに紛れて装置を付けるのは難しくないんだよ。俺じゃなくてもね」


 天翼人であっても普段から翼を外に晒しているわけではない。必要があって空を飛ぶ時以外は、服の中に隠している方が普通だ。それはレイナも例外ではなく、レイナが翼を晒す機会など、フライキャリアの試合くらいだ。

 だがフライキャリアの試合に持ち込める物は厳しいチェックが入るうえ、試合中に最速のカータレットに接触できる確証はない。


 他にあるとすれば――


「あのときか――ッ」


 先週末、イミナとランド3に行った時のことだ。マナーの悪い客にレイナがキレて翼を広げた覚えがある。ここ最近で翼に何かを仕掛けられる状況はそれくらいしか思い浮かばない。


「一つじゃないよ」

「――っ」


 再び、レイナの背中で何かが弾けた。

 爆風が背中に叩きつけられ、背と翼に猛烈な衝撃が走る。


「痛ッ」

「ちょいと失礼しやすよ、お嬢さん」


 爆風とは別の感覚――翼を引っ張られる感覚に、レイナは思わず声を上げた。そしてそれに答えたのは、聞いたことのない男の声だった。


「あんた誰――何してんのよ⁉」

「何ってそりゃ――」


 羽の根元がギュッと締め付けられるような感覚――おそらく左右の羽をそれぞれ根元で締め付けられたのだ。爆発のせいか、それとも縛られたせいか、レイナは翼浮力を上手く使えなかった。



「ぶった切るんでさぁ。この羽を」


 続いて男が漏らした言葉に、レイナは言葉を失った。


「暇じゃないんだ。早くしてくれ」

「へい」


 ソウジの冷たい言葉に、顔も見えない男が大人しく頷く。


「何、え、ちょっと待って待って待って。冗談やめてよ、ねえ」

「冗談なんかじゃないよ、レイナさん」


 ソウジが口を動かす間に、翼に何かを刺された。

冷たく、鋭い、針のようなもの。

そこから冷たい何かが体に流れ込む感覚に襲われ、視界がぐにゃりと歪む。


「大丈夫。すぐに終わる」


 翼浮力はおろか、全身に力を入れることすらままならなくなっていた。


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