クリスマスそれぞれ

いのり

第1話 千駄ヶ谷瑠海の場合

 『はい、こちらスカイツリー近辺のイルミネーションになります。クリスマスイブだけあって···』

お風呂から上がってリビングに行くと、キラキラと光る街がテレビに映っていた。何となくテレビの方へ歩くと、ソファーにはお母さんの姿が。

 「隣、座るよ」

 「あら瑠海るみ、いいわよ」

少し左に寄ってくれたので私はお母さんの右側に座る。彼女はお洒落をしていた。この時間に出掛けるのだろうか。

 「お母さん、どっか行くの?」

 「あら?言ってなかったかしら」

 「何が?」

 「これから鉄郎さんとデートなの」

 「あー···」

このリア充め。受験生が遊ぶのを我慢してるときに···自分等はデートとは···。全く仲のいい夫婦だこと。何年も一緒にいたのに愛が冷めるどころか熱くなってるよ。

 「七海は彼氏ん家。両親はデート···」

双子の妹も両親もリア充。私だけ非リア。

 「ねぇ瑠海」

溜め息をついた私に、お母さんが呼び掛ける。私は返事をせず、ゆっくりそっちをみた。

 「希海のぞみちゃんは?」

 「あー···」

急いでそっぽをむく。今、希海にふれるのはあまり良くない。

 「ちょっと、何々?」

あーあ、興味持っちゃった。ごめん、希海。

 「希海のお母さんには言わないでよ?」

 「うん」

お母さんはこう見えても約束は守る人だ。言っても平気かな。

 「希海、彼氏いるよ」

 「えー!そうだったの?理恵子りえこちゃん隠してたのかしら」

思ったとおりの反応だ。まぁ、それもそのはず。親友の娘に彼氏がいたなんて驚くよ。私も初めて知った時、思わず叫んだからね。

 「違う。希海、私以外に彼氏いることいってないの」

 「そうゆうことね」

私の言葉でお母さんは落ち着きを取り戻した。

 そして、

 「とうとう、幼馴染みのなかで瑠海だけになったわね」

にやけながら言う。

 「何が」

 「何ってそりゃ···」

1拍おいて笑いながら答える。

 「恋人いない子よ···ふふ」

 「なっ···」

今1番言ってはならないことを平気で言ったよこの人!私だって気付いてましたよ!でも思い出したくなかった!

 七海は希海の弟の海斗かいとが彼氏だし、希海はクラスメートが彼氏だし。おまけに両親はラブラブだし。何で私だけボッチなの···。

 「瑠海、落ち着いて」

 「嘘、声に出てた?」

 「えぇ、バッチリ」

 「ごめん」

何となく、愚痴っぽくなってた気がしたから謝った。お母さんが声をかけてくれたおかげですぐに落ち着きを取り戻せた。そして笑顔のまま 

 「瑠海は壊滅的なヲタクだから。彼氏が出来ないもの」

爆弾を投下した。余計な事を···!

 「あのね、私だって···!」

 「玲子れいこ、行くよ」

 「はーい」

あぁ、お父さんなんでこのタイミングで。今私の内に秘めたものを暴露しようと思ったのに。まぁ、いい。今すぐこのリア充には退散して貰おう。

 「あーいってらっしゃい」

玄関で靴を履き始めたラブラブ夫婦に言う。

 「瑠海も行くか?」

お父さんが真顔で言い放つ。

 「嫌だ」

ふざけんじゃない。何でリア充の中に入らにゃいかんの。生き地獄か?拷問か?

 「だろうな」

予想通りだと言わんばかりの態度。何かムカつく。

 「もー、早く行って。リア充菌が移る」

 「移った方がいいんじゃない?」

 「良いからいけー!」

お母さんの背中を押し、外へ追い出す。

 「瑠海、私たち26日の昼までいないからね」

 「2泊3日ね。分かった、いってらっしゃい」

そのまま勢いよくドアを閉めた。 

 「全くあの人たちは···」

早く出掛ければ良いものを。どうしてあんなチンタラすんだか。非リアの心リア充知らずだよ。

 さて、何をしよう。テレビはどーせクリスマス特集。かといって、受験生らしく勉強をするつもりもない。だとしたら、やることは1つになるか。

 「ネトゲしよ」

温かいココアを作り、自分の部屋にこもる。パソコンを立ち上げ、ヘッドセットをし、すぐさま集会所を開く。すると、すぐに1人入ってきた。

 『こんばんはー』

 「こんばんは」

とても可愛らしい声をした女性だ。レベルは40。アバターはフリフリの黒のミニドレスに、胸に赤い薔薇のブローチをしている召喚士。一方私は着物をきたオッドアイの暗殺者。

 『あのー』

 「はい」

少し恥じらいながら、喋り始める。相手は緊張しているみたいだ。

 『Kasyuu-Yagenって名前···由来は?』

 「あー、刀です」

そう、私の名前は大好きな日本刀から取ったのだ。2振りの名前を合わせただけだが。多分、言っても分からないはず。

 『刀!やっぱり!』

 「え···?」

まさかこの人も···?

 『知ってます!加州清光かしゅうきよみつ薬研藤四郎やげんとうしろうですよね』

 「はい!そのとおりです」

思わず叫びそうになったのを抑えて冷静に答える。そして気付いた。

 「もしかしてMikadukiさん、三日月宗近みかづきむねちかから···」

 『そうです!三条の三日月宗近です!』

こんな所で刀マニア···同類に会えるとは。まさに、類は友を呼ぶだな。

 『嬉しい···刀好きな女性に会えて』

 「私もです。なかなかいませんからね」

 『そうなんですよねー···』

 「じゃあ、少し語りますか」

 『いいんですか?』

顔は見えないが分かった。Mikadukiさんが興奮を抑えているのが。

 「はい。三条派の知識も少しはありますから」

 『語りましょう!私も加州や薬研についてもっと知りたいです』

お互いに大好きな日本刀の事を話せて、勉強出来ていい時間になる。


 それから1時間位語った後、男性が加わったため話を中断した。剣士の男性もレベル40だった。今回は、もうすぐレベルMAXの私がこの2人のレベルを上げることになった。エネミーをガンガン倒して報酬をゲットして···たまにお喋りして。そんなことを繰り返しているうちに、2人のレベルは60にまでなっていた。気付いたら11時。時間を忘れていた。

 剣士が抜けて、2人になった私たちはお互いのTwitterをフォローし、いつか実際に会ってまた語ろうという約束をした。今はどっちも中3で受験があるから無理だけど、お互いその時を楽しみに、受験を乗り越えようと話した。私たちは都内に住んでるから、もしかしたら同じ高校に入学するかもなんてくだらない話もした。そして、『じゃあね』と言ってゲームやめた。

 飲みかけのココアを飲み干して歯を磨いてからベットにはいる。そして、

ふとこう思った。

 さっきまでは、何で自分だけリア充じゃないんだって嘆いてたけど、彼氏と出かけるよりも絶対こっちの方が楽しい。クリスマスイベントもあるからしっかりクリスマス気分も味わえるし。

 そしてクリスマスはネトゲをして過ごした。勿論、外には出ていない。

 この事を彼氏の家でクリスマスを過ごした妹に話したら

 「そんなんだからダメなんだよ」

と呆れられてしまったけど。

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クリスマスそれぞれ いのり @sakura-yuki

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