彼には不釣り合いな冒険
紅藍
プロローグ
猫目石瓦礫の遺書1
これを君が読んでいるということは、もう僕はこの世にいないのだろう。
なんて。
ありきたりに過ぎる口上で書き始めてみたけれど、僕は君が誰かなんて知らない。特定の人間に対して宛てた手紙ではないのだから。場合によっては、これを読んでいる君は僕が『君』と呼べるような身分ではないのかもしれない。
というか、十中八九そうだろう。大学受験を憂慮するような年齢の僕が、偉ぶって君なんて呼べる人間は、この日本国内に〇.〇一パーセントだって存在しまい。
だからといって、最初の一文を冗句だなんて捉えないでほしい。若造が戯れに書いた空言だなんて決めつけないでほしい。
どうかくずかごに捨てないでほしい。
君がこの文章を読んでいるとき、僕がこの世にいないというのは、厳然たる事実だ。
この、僕の遺書とも言える駄文に書かれていることは、実際に起きたことなのだ。
僕は、猫目石瓦礫は、一切の虚偽を書かないと誓おう。担保にするべきものなど何も無いが、一介のミステリマニアとして、十戒と二十則に反しないことを誓おう。
しかし…………この歳で遺書を書くことになろうとは、まったく思いもよらなかった。実際にはまだ、これを書いている段階では、僕の死は運命づけられているわけではないのだけど……。クローズドサークルは全滅が花。それはクリスティからの伝統であり栄光だ。ましてタロット館で発生した一連の事件、その犯人はミステリ作家ときてやがる。これで全滅しないはずはない。
短かったな、人生。
さて、前口上はこのくらいとして、さっそく書き始めよう。
タロット館で起きた、当初の予定を大きく超える五日間の惨劇。
誰が死んだのか。どこで死んだのか。いつ死んだのか。
そして忘れてはならないのが、夜島帳。
小学生時代からの旧知にして、最近では前世の因縁もかくやな彼女。
僕は帳のことを知悉していたつもりだったけど、どうもどうやら、そいつは素っ頓狂な勘違いらしい。
あえて問わねばならない。
夜島帳、お前は誰だ?
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