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プロローグ

プロローグ1 "ラウリュエレ"

 夢。

 動くことを忘れたのはいつだったか。遠い昔のように感じるが、つい最近のようにも感じられた。

 自分は死んでいた。いや、死んでいる、とも言える。体は重く、動かない。心は固く、揺るがない。

 それでも意志は呟いた――まだ、終わりではないと。

 動かさなかった体を動かす。揺るがなかった心を揺るがす。

 自身のすべてを今、彼は大きく揺るがした。


 *  *  *


 目がようやく覚めたようだった。体は重く、動かない。心は固く、揺るがない。それでも意志は――熱く、燃え盛っていた。

 そんな自身を呼ぶ声が聞こえた気がする。

「起きた、ああ起きたとも」

 何やら声がするのだ、誰かが彼を呼んでいる。

 誰かはわからないが、とても懐かしい声のようだ。

「お前の起きたはまだ寝ていると思うのだが」

 そうため息をついたのは白銀の髪を持った赤い瞳の少年だった。

「お前はいつでもそうだ、言葉だけで済まそうとする。体も動かせ。言うだろう? 口より手を動かせ、と」

 愚痴をこぼしながら少年は足下に寝転がる男を見た。

「なぁ、ラウル?」

「ああ――ごめんごめん。どうも寝起きが悪かったようで」

 軽く謝りながらラウル、と呼ばれた男は体を起こした。

「そして、だ。ここはどこだ? 外だと言うのならわれは石を枕にして寝ていたと? なるほど不愉快なことこの上ないな」

 黒い髪を揺らしながら愉快に笑う。どうやらここは晴天この上ない空の下のようだ。勿論のことだが彼にはこんな場所で寝るような趣味ではない。

「俺もだが? よもやお前にこんな趣味があるとは思わなんだ」

「我の趣味じゃないに決まってるだろう。第一、こんな場所で寝れるほど寝付きがいいわけではないぞ。我は」

 唇を尖らせながらラウルは言う。彼には何故このような場所にいるのか検討がつかなかった。

「一番最後の記憶は――そうさな。死んだことぐらいしかないのだが」



 数時間後。彼らのいた場所は所謂郊外で、そこから少し歩けば街が見えた。

 大きな通りには露天が立ち並んでおり、治安も活気も好印象を受ける。

「ここはどの街だったかな……聞いたほうが早いか」

 彼らが死んでから、今こうして目覚めるまでどれ程の月が経ったのやら。一ヶ月と短かったのかもしれないしよもや一年や十年ほど経っているのかもしれない。

 そう思ったラウルは通りを歩く男に声をかけた。

「失礼、そこの道歩むお方。我らはこの通り異国から来たのだが何せ初の旅路でな。しかもどうやら乗るふねを間違えてしまったようだ。そこで聞きたいのだがここはどの海域の、どのような島なのか教えて頂けないだろうか?」

 そう語るラウルに男は意気揚々と答えた。

「おお! 異国からようこそ遥々おいでなさった! しかも大層大変な目にあったと今聞いた。旅は何があるかわからんのが良さだからな!

 ああ、質問に答えよう。ここは三大海域外、東の海域にあるエリュアンデュータ《原初の島》だ」

「……いま、なんと?」

 ラウルは心底驚いた。そこは彼らが死に至る場所より、遥かに遠く離れた場所であったからだ。

 それ以前に……そのような名の島は、彼らの居た時代には存在しない名だった。

「エリュアンデュータだ。大方、貴方方は物資竜にでも紛れ込んでしまったのだろう」

 まっこと不運なことよ。

 そう大きく笑う男を呆れて見てしまう。それほど彼らには想像のできぬものであった。

「そ、そうか。エリュアンデュータか、聞いたかグウィル。と、ところでだ。次の物資竜はいつほどに来るんだい?」

「そうさな……つい先日来たばかりだから、およそ一月は来ないだろうな」

 一月。この世界では一月をおよそ15日ほど――しかしながら日の流れは3日分ほどの長さである。

「なるほど。大丈夫だ、理解をした。ではこの近くに宿はないだろうか? 一月ほど、この島に滞在しなくてはいけないようだしな」

 そこを白銀の髪の――グウィルと呼ばれた少年はそう返した。

「ほう、宿か。ちょうど良い場所がある! 安くてなかなか飯もうまい宿だ」

「ははは、それは、たしかに、有り難いな……」

「……もう一つ良いか、ご主人。今から――”死竜が死に至った《ラウルが死んだ》”時代まで。およそ何年程経っている?」

 グウィルはそう問いかけた。

 緊張に包まれる二人とは裏腹に、男はまたも陽気に答える。

「随分と古い話だな――およそ、400年ほどだと思うよ」



 こうしてラウルとグウィルはエリュアンデュータと呼ばれる島に滞在することとなった。

 その島が、この先大きく彼らに関わるとは知らずに――。

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