第22話 同じ道でも行きと帰りで違うこと

 まずいなっ。あと10分だっ。


 つい先日のこと、とあるお約束のために小走りで通りを急ぎました。

 時間に余裕を見て出たはずが、途中で忘れ物に気がついて一度戻り、そして時間ギリギリになってしまったのです。


 もう時計を見ている余裕もなく、ただ道の先をみながら人と人の間を通り過ぎて、ようやく目的地に到着しました。


 建物に入って時計を確認。よかった。まだちょっと時間がある。間に合った。


 お約束の内容は明かせませんが、直前にそんなドタバタ劇があったせいか、少し浮ついた気持ちのままで、それでも無事に終わりました。


 ようやく肩の荷が下り、挨拶をして建物を出ると、ほっと一息つける時間です。


 のんびり帰り道を行く――。その時に気がつきました。


 町の音が聞こえたのです。


 行き交うご婦人のぶら下げたビニール袋の音。車のエンジン音や、チャリンチャリンという自転車のベル。

 そして、お店の自動ドアが開いた瞬間に聞こえてくるにぎやかな音。

 遠くからは電車の通過する音や、駅のアナウンスの声も。


 同じ道なのに、そこにはまったく違う世界が広がっている。――いやそうじゃない。

 町に変わりはありません。行きと帰りで違うのは私の心なのです。



 その時の心で世界の感じ方がことなる。


 どこか寂しく見えたり、輝いて見えたり、疲れて見えたり、怖く見えたり。

 いつもと同じ見慣れた風景なのに、突然、違って見えたり。


 ひとたび心を落ち着け、小さな音を拾うように、そっと認識の耳を澄ませれば、聞こえてくる世界がある。

 見えていなかったものが見えてくる。


 そんなとき、ああ、この町ってこんな表情もするんだって気づかされたりします。


 分刻みのスケジュールで飛び回らなければいけない時もあるけれど、もしかしたら大切な何かを見ずに走り抜けていたのかもしれない。


 冬の町中で一人、そんなことを思った帰り道でした。


 貴方はいかがですか?


 そっと目を向ければ、今まで気がつかなかった美しい世界が、そこに佇んでいるかもしれませんよ。

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