第7話 ハルちゃん、愛してる
落ちもなく重めの話です。
私の住んでいるところから車で2時間ほどのところに、県立こども病院があります。
子どもたちを治療する最後の砦。
ここではどんなに難病でも、治療を断ることはほとんどありません。
◇
知り合いの子が、難病ではありませんが、手術のために入院することになりました。
各病棟の入り口には扉が閉められていて、面会に行く場合、一定の年齢以下の子どもはその扉の向こうへ行くことができません。
兄妹であってもガラス扉越しでないと会えないのです。
面会時間のギリギリまでいて、そして、帰るとき、病棟の中では母親代わりに赤ん坊をおんぶした看護婦さんの姿がありました。
そう。ここでは、夜は看護婦さんが母親代わりになるのです。
◇
「電池が切れるまで」というドラマでは、長野県の子ども病院にある院内学級が舞台となりました。
『「電池が切れるまで」の仲間たち』(宮本雅史さん、角川書店)には、その院内学級の子どもたち。そして、その親と医師の姿が描かれています。
「幸せ」とつぶやきながら亡くなっていった
「命」の詩を書いた由貴奈ちゃん。などなど。
それでもふとした時にこらえきれない辛さや寂しさを漏らします。
抗がん剤治療に放射線治療など。
小さな身体で大きな病気を受け止める子どもたち。
大人でも辛い治療に耐え抜くのです。
そんな子どもたちも院内学級では病気を忘れ、明るくそれぞれができることに挑戦したり……。
◇
もう10年ほど前になりますが、ドキュメンタリー番組「小さな命の最前線 こども病院密着24時」(2006年2月4日放送)が放送されました。
心臓病の赤ちゃんの手術。
ピンポン球のサイズに近い心臓を手術する。
手術後、管で繋がれながらも小さな胸が一生懸命に鼓動を打っていました。
その姿は、まるで「私は生きたい」と全身で訴えているよう。
また別の男の子は父親はいなくて母親と妹の家族。
もちろん、夜の病院では一人っきりです。
深夜2時に男の子からお母さんにメールが届きました。
「ハルちゃん、愛してる」
大好きな妹へ、そして、母親へのメッセージ。
……その男の子は数ヶ月後に亡くなってしまいました。
病と闘っているのは子どもたちだけではありません。
家族が、そして、医師や看護婦さんたちも一緒に闘っているのです。
◇
おちこんで、おちこんで、
やっとその先が見えて来るから
人っていいんですよ
(p94)
『「電池が切れるまで」の仲間たち』にある小学三年生の男の子のメッセージです。
まるで小さな修行僧のような言葉。ですが院内学級の山本厚夫先生は言います。
「こどもたちの顔を見ると、かわいそうなんていう言葉はあてはまりません。
そんな甘いものではありません。命をかけて闘っているのです」(p95)
◇
今も難病と闘っている子どもたちがいる。一緒に闘っている家族が、医師や看護婦さんがいる。
なかには日本でその子一人だけしか発症していない病気。同じ病気の子を探している人もいます。
(NPO難病のこども支援全国ネットワーク「同じ病気のお友達を探しています」
http://www.nanbyonet.or.jp/denwa/friend.html)
辛くて辛くて、もういなくなってしまいたい。……そう思うときがあるかもしれません。
ですが、理屈など関係なしに命は尊いのです。「電池が切れるまで」。その瞬間まで、生きることをあきらめないで欲しい。
子どもたちの姿を見ていて、
願わくば、難病の子どもたちの治療が少しでも進みますように。
そして、遠くからでも、直接会うことはなくても、子どもたちに寄り添える人になりたい――。
※ 「小さな命の最前線 こども病院密着24時」は昔、録画して、何度も泣きながら見た番組です。デッキのデータが飛んでしまって、多少、記憶で書いていることをご了承ください。
ですが、「ハルちゃん、愛してる」の声だけは、今も耳に残っています。
※ 宮越由貴奈ちゃん「命」は http://yabuyama.private.coocan.jp/zakkiinoti.html
是非、ご参照ください。
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