第6話 一年、始めて一年の春あり
うちの子の誕生日。
日に日にお利口さんになっていくのを見ると、ほほ笑ましく思います。
「とって~。……違う! ……うん、それ!」
ちょっと遅れていた言葉も出るようになり、コミュニケーションを取るのが好きみたいで、毎日がにぎやかです。
最近のお気に入りはリンゴジュースみたいで、「んご」「んご」と呪文を唱えているようにおねだりを……。
◇
『唐詩選』の一つに次の詩があります。
――――
一年、始めて一年の春あり
百歳、
よく花前に向かって幾回か酔わん
十千もって酒を
――――
「宴城東荘」という詩です。
「一年が経てば、はじめて又一年の春が来ます。
百歳といっても、いまだかつて百歳を生きた人はいません。
そうであれば、春の花を前に幾度、酒に酔うことができましょうか。
ですから、一万もの錢をもって酒を買うのを、貧乏だからと断わらないでくださいね」
※十千=1000×10=1万。
最後の7文字の意訳に数パターンがあるようですが、おおむねこのような意味となりましょう。
◇
都会で日々を忙殺されていると、うっかりと季節の訪れに気がつかずに一年を過ごしてしまいます。
ふと目を向けると梅の花が咲き出し、春ももう遠くはありません。
いつもの変わらない四季折々の営み。春が来るたびに新しい一年を重ねていく。
その折々の季節を楽しみ、愛でること。
心の余裕があれば、また違った一日を過ごせるのじゃないかなと思います。
どうでしょう。
慌ただしく出勤する時、また学校に行く時など。
ふと足をとめて、周りの景色に目を向けてみませんか。
きっとそこに、美しくも慎ましい光景を見つけることができるでしょう。
◇
さて、先の唐詩。実は返歌ともいうべき詩があります。
――――
今日の残花は昨日開きしなり
――――
主人がころころと笑うのは
こうして出逢ったのですから、まあ、盃を傾けようじゃありませんか。
目の前に見える春の景色は流れゆく水のようなものです。
今日、散り残っている花は、昨日咲いたばかりなんですよ。
――出逢いは貴重なもの。
このカクヨムで出逢った方々に、改めて感謝を。
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