彼岸花に口づけを
雨音
第1話
いつから気づいていたのだろう。
どうして君をそんな目でしか見れなくなったのだろう、でも諦めるなんてできないんだ。
かと言って君にこの想いを告げたら君はどんな顔をするだろうか、家族として友人としてのこの関係も何もかも崩れてしまうかもしれない、だから勇気も度胸もない俺は何もできなかった。
ただもしもの事を考えただけで胸が引き裂かれるような気持ちになりどうしても恐ろしくて堪らなかった。だけどこの想いを告げられなくても今ここでこの時間で少しでも長く君といられたらそれで今は満足だった。
そう、満足だったんだ……
満足だったはずなのに……、わかってるいつまでも側にいられない、いつかそうなると覚悟してたはずなのに
俺は……
俺は…………
高校二年の夏、初夏と比べ蒸し暑さはないがやけにうるさい蝉の音と焼けるような暑さが続くようになった。
聞き覚えのある声でこの炎天下の中ふらついていた俺の耳によく響いた。
「湊」と大きな声で俺の名を呼ばれそれに反応し振り向くとその声の主は、幼い頃から家族ぐるみで兄弟のように元に育った幼馴染みでもあり俺が今好意を抱いてる相手でもある「望月綾斗」の声であった。
相変わらず見た目からも滲み出る犬のような人懐っこさとあどけない顔が特徴的な同じく男子高校生だ。
元から背もそこまで高くなく幼い顔立ちでありそれもあってか未だに俺と並んでも中学生と勘違いされている程だ、それが嫌で地毛の焦げ茶色を金髪に染め今では、くすんだ金髪へと変色していた。
最初は違和感のある金髪だったが現在のくすんだ色の方が目の色とよく似合っているが中学生に間違えられるのは見た目のせいだけではない気がするが…まぁ本人が満足そうなのでいいか。
俺の側まで駆け寄り、たわいのない会話を繰り返しながら、共に登校した。
さすがにクラスは別で綾斗は階段を上がってすぐにある自分の教室へと入っていき軽く互いに手を振りその場を後する、自分の教室についたとき特になんの変わりようもない教室で普通に友人と会話し、窓辺の自分の席に着きいつも通りの1日が始まる、隣の窓から外を眺めていた。時々黒板や教科書などとにらめっこしながらあと何時間潰せば帰れるだろう、あと何時間したらあいつ綾斗に会えるだろうかと気づいたらあいつの事を考えていた。
おかしいのは百も承知だ、当然男が男を好きになるなんてそんなの気持ち悪いだけなのだからしかたない。
最近は偏見などないという人が多いと言うがそれでも基本誰しも嫌だろう。
もしも綾斗に気持ち悪がられ嫌われるくらいなら、このまま兄弟のような関係でいいとそう思った。
でも、いつまでも一緒の時間なんてもうすぐ終わるかもしれないだからそこ、少しでも長くいたいのだ。
休み時間、窓からグランドを眺めていると次の時間が体育だったのか他クラスである綾斗の姿が見え他にも知っている人たちがちらほらと見えた。
「あぁ、早く会いたい……」
そんな姿を見ていたら余計早く会いたくなった。
……
やっと全ての行儀を終え帰ろうと廊下へ出た、その瞬間突然腹目掛けて勢い良く突っ込んで込まれ不意討ちをくらい俺はその場で崩れ落ち、声にもならない声で腹を抑え絶句した。
「あー、悪い悪い、大丈夫かー?」
顔をあげるとしゃがみこみ顔の前で両手を合わせ笑い声を交え謝る姿の綾斗がいた。
その他にも、同じクラスのやつや周りから笑い声が聞こえ茶化してくるやつもいた。
「毎度毎度……そろそろ死ぬぞ……俺……」
「お前俺よりガタイ良いし丈夫だろなら
死なん死なん」
「丈夫って、あんな勢いそろそろ死ぬわ⁉
骨も砕けるわ⁉歩く殺戮兵器かお前は‼」
「あーもし死んだら、
ボロボロの骨だったりしてな、」
死に物狂いで声を絞りだしそんな返しをされ立ち上がりそれに合わせて綾斗も立ち上がる。歩き出すと目を細めて憎たらしそうに俺に対し「身長わけろ~」とお決まりの台詞を棒読み加減で口ずさみながら俺の腕に軽いパンチをし続けた、そんな綾斗を適当にあしらいながら俺たちは下校した。
放課後の下校中、なんでもない会話を交わし互いに家へと帰った。
帰っても家には誰もおらず、自分の部屋へと戻り適当に過ごし携帯の端末を眺めて夜を過ごし1日を終えた。
次の朝もそのまた次も次々と同じ事を繰り返しす日々からこんなあっさりと変貌を遂げるなんて普通誰も予想なんかしなかったはずた。
少し違う出来事で俺だってまさかこんな世界の全てが変わったようなそんな大袈裟な事があるわけないと思っていたのだから……
時間はあまりないかもしれないなんて、少々甘過ぎたみたいだ、本当はもうとっくの昔に無かったのかもしれない。
自分が気づかないだけで君の中じゃ
随分前に終わってたんだろうな。
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