第83話 決戦.3

「たしかに今のままじゃ、一方的な敗北以外に道はなさそうだ」


 翔馬がそう口にすると、吸血鬼は意外そうな顔をした。


「一方的な敗北以外の可能性など、あるのか?」


 そう言って、笑う。


「そうか……それなら」


 対して翔馬は、真っすぐに吸血鬼の赤い瞳を見据える。


「もう一度見せてやるよ。俺の魔法を」


 そして、再び魔術を発動する。


「――――身体能力昇華(エクスペリオール)」


 それは、壊れ性能の『身体能力向上』をさらに超える、驚異の固有進化魔術。


「――――感覚超過(ハイ・コンセントレート)」


 そして、過剰効果の『感覚先鋭』を大きく上回る、前代未聞の固有進化魔術。

 名前も、ランクすら不明のガントレットが、火花を散らすほどの勢いで駆動を開始する。

 二つの壊れた固有進化魔術が、今一つに。

 九条翔馬の手によって、奇跡がここに動き出す。


「――――宵闇に瞬く閃光(ライトニング・ノットデッド)」


 対して伝説の吸血鬼アリーシャ・アーヴェルブラッドは、翔馬を見据えたまま――。


「ならば九条、ここでその身に教えてやろう」


 そのルビーのように赤い瞳を、強烈に輝かせた。


「伝説と呼ばれる、吸血鬼の力を――――ッ!!」


 鳴り渡る爆発音。

 アリーシャは一切のタメがない超低空の直線飛行で、一気に翔馬との距離を詰めにかかる。


「速い!」


 翔馬をもってそう言わしめる、高速飛行。

 左手による切り裂くような攻撃は、魔力の輝きによる残像を描く。

 翔馬がこれをかわすと、アリーシャはそのまま右に滑るようにスライドし、振り返りざまに右の手刀を放つ。

 翔馬はそれを左腕で受けて反撃に移ろうとするも、アリーシャは身体を翔馬の方に向けたまま時計回りに滑空し、魔弾の連射でけん制しながら右後方へと大きく回り込んでいく。


「そんなこともできるのかっ!」


 魔弾に足止めされる翔馬に対して、アリーシャは百八十度まで旋回したところで一気に直進急加速。再び翔馬へと突進していく。

 飛びかかりながら振り下ろす右手の一撃は、満月の影響によって強烈な衝撃波を伴う。

 しかしこれを翔馬は最短の動きでかわし、続く左手による振り上げもあえて紙一重で回避してみせた。

 その狙いはもちろん、いち早く反撃を開始するためだ。

 そしてここから始まる、最速の打撃連携。

 翔馬は右、左と頭部を狙ったフックを放ち、反撃の拳を誘うとそれをくぐってかわし、腹部に強く右拳を打ち込む。


「ぐッ、はあッ!」


 よろめくアリーシャの掌が輝く。狙いは薙ぎ払いによる追撃の阻止。

 しかし翔馬はその手を下から弾き上げると、さらに大きな軌道のアッパーを叩き込む。

 アリーシャの手を離れた魔術は的を外し、中空を鮮やかに彩った。

『宵闇に瞬く閃光』の速さは、満月下の吸血鬼すら上回る。

 翔馬はさらに踏み込むと、突き刺すような前蹴りから短い跳躍の回し蹴りへとつなぐ。着地と同時にハイキックを放ち、そこから回転のままに仕掛ける足払い。

 アリーシャがそれを跳び下がって回避すると、翔馬は一瞬のタメから超速で飛びかかる。

 高速の二回転から放つ左の空中後ろ回し蹴りが、浅く頬を捉えた。

 下がり続けるしかできないアリーシャ。だがこれでもまだ終わらない。

 さらに翔馬は、回し蹴りの回転をそのまま利用した右のストレートを放つ。

 もう一度、力を貸してくれッ!

 緑光の閃きは、滞空中に手にしていた魔封宝石の輝き。

 右拳がアリーシャに突き刺さり、一面に固有進化魔術の粒子が飛び散った。


「ぐっはァァァァッ!!」

「押し切るッ!!」


 道路上をバウンドしていくアリーシャを、翔馬はさらに追いかけていく。


「させ、るかァァァァァァァァァァァァ――――――――ッ!!」


 しかし一気に追い込まれてしまうことだけは避けたいアリーシャは、半ば強引に空へと舞い上がり、追撃を逃がれた。

 そのまま大きく夜空を旋回して、翔馬から長い距離を取る。

 ようやくここで、アリーシャは完全に両足をつける形で道路上に着地した。


「……さすがだな、九条」


 小さく一つ息をつく。翔馬との距離は、約三百メートル。


「だが、これならどうだ?」


 アリーシャは遠くターゲットを見据えて、わずかに下がるような形で浮き上がった。

 そして空中で姿勢を整えると――。


「ここで、勝負をかけるっ!!」


 そう宣言して、翔馬へと向けて飛び出した。

 ベイブリッジ上を高速飛行し、一気に急接近を仕掛ける。

 加速と共に、アリーシャの周辺に次々と浮かび上がっていく魔弾。

 ターゲットを直線上に捉えると、その全てを猛烈な勢いで発射する。


「そう、来るかッ!」


 翔馬は迫り来るアリーシャの魔弾連射を、『感覚超過』を研ぎ澄ますことで回避する。

 しかしアリーシャがモードを切り替えるように一度空中で水平回転すると、噴き出す魔力がアフターファイアのように吹き上がった。

 ここからアリーシャはさらに――――加速、加速、加速する!

 高速で放たれる魔弾の勢いはもはや機関銃。

 接近するにつれて、かわしきれなくなっていく。

 翔馬は直撃を避けるため、痛みをこらえて魔弾を両腕で弾き始めた。

 するとさらにアリーシャは、伸ばした右手からも魔弾を放ち始める。

 連射攻撃は、驚異的な速さでその勢いを増していく。


「くっ!」


 いよいよ弾くことすらできなくなった魔弾が、翔馬の身体をかすめ、炸裂する。

 そして両者の距離は、ついに残り十メートルを切った。

 ……このまま押し切って来るか、それとも打撃で来るか。

 どっちだ!? どっちで来る!?

 翔馬は二つの可能性に備え、意識を集中する。


「なっ!?」


 しかしアリーシャはその予想を裏切り、瞳の赤い閃光を残して上空へと舞い上がった。

 その瞬間、時間が止まったかのように見えたのは、世界がその速さに追いていかれたからか、はたまた時計の針が彼女の美しさに見惚れたからか。

 白く輝く魔性の満月を背に、アリーシャが空中で踊るように一回転すると、その長く白い髪から無数の輝く粒子が生まれた。

 そしてそれらは全て魔弾へと変わり、一斉に翔馬へと降り注ぐ。


「なんて、攻撃だッ!!」


 横濱の夜空に突如として現れた魔弾の流星群は、その数なんと二千四十八。

 その全てが常人の放つ魔弾の数倍の威力を誇る、驚異の制圧魔術。

 翔馬は上空から一斉に降り注ぐ魔弾の雨に目を凝らす。

 ……避けられるか!? いやそれ以外に道はないッ!!

 それは降りつける雨を全てかわしてみせろというレベルの、無謀な挑戦。


「うぐっ!」


 いくつもの魔弾が翔馬の肩を、腕を、腿を打ち付けていく。

 翔馬はそれでもどうにか、弾き、かわし、直撃を避け続けていく。

 その動きは、まさに驚異的だった。

 そして最後の一つをかわすと、なんとか致命的なダメージを受けずにこの脅威を切り抜けることに成功。

 ようやく、翔馬に視線を下げることが許された。

 だがそんな翔馬の目に映ったのは――――凛然とした立ち姿の吸血鬼だった。

 その右手はすでに、真っすぐに翔馬へと向けられている。


「ヤ、バいッ!!」


 翔馬はなりふり構わず全力でアスファルトへと飛び込んだ。

 次の瞬間、アリーシャの手から放たれる一筋の閃光。

 それはベイブリッジを真っすぐに疾走し、そのまま夜空を駆け抜けていった。

 刹那の空白の後、思い出したように爆風が巻き起こり、翔馬は道路を転がる。


「宵闇に瞬く閃光を使っても、どうにかってところか……ッ!」


 相手に考える暇すら与えない怒涛の魔術攻撃は、まさに圧倒的。

 それは『魔力』という概念に愛された吸血鬼という種族の、優位性の賜物。

 魔術の使用を解放された今夜の吸血鬼はまさに、夜を統べる異種の王だった。


「……これでもか」


 しかし、それにも関わらずその表情に余裕はない。


「これだけの攻撃を以ってしてもまだ、攻め切るには足りないというのか」


 アリーシャは苦々しい表情でこぼす。そう、吸血鬼にはもう時間がない。

 このまま少しずつ翔馬の体力を削っていく形なら、いつかは勝利できるかもしれない。

 だが今は、それが許される状況ではないのだ。

 すでに派手な魔術をいくつも放っている。いかに都市で大きな騒動が起きている最中とはいえ、ここにもすぐに機関員たちがやって来るはずだ。

 そうなれば機関はその圧倒的な勢力を持って、吸血鬼を捕らえに来るだろう。

 百年の眠りから目覚め、まだわずか。

 吸血鬼は今や、逃げる場所も隠れる場所もない逃亡者なのだ。


「だが、ここで敗れるわけにはいかない」


 アリーシャは翔馬を見つめ、強く拳を握る。


「取り戻すのよ……すべてを」


 勝負を決めるつもりの魔法攻撃を行ってもなお、勝利には至らなかった。

 ならばこれ以上続けても、決着を付けることはできないだろう。

 それならもう、できることは一つだけだ。


「……直接、ねじ伏せる」


 前回の戦いでは後れを取った。だが、互いが『決め』の一撃に勝負を賭ける形であれば、必ず勝機はある。

 煌々と輝く月の下、向かい合う二人。吹き抜けて行く海風。

 アリーシャは大きく息を吸うと、覚悟と共にその足を踏み出した。


「……私は」


 その歩みは、ただ真っすぐに。


「終わりたくない」


 そして一歩ずつ、確かに力強さを増していく。


「終わりたくないのよ。まだ…………ここでッ!!」


 ほとばしる魔力が足元で弾け飛び、音を鳴らしたその瞬間。

 二人の視線が、ぶつかった。


「その血をよこせぇぇぇ! 九条ォォォォォォォォォォ――――――ッ!!」


 手負いの獣のように、アリーシャは猛然と翔馬へ跳びかかる。

 放たれる攻撃は明らかな大振り。しかし強い魔力を込めた一撃は、さらに強烈な衝撃波を起こし翔馬を圧倒する。

 なんてパワーだッ!

 迫り来る衝撃の嵐。だが押されながらも翔馬は、見事な回避を見せていく。

 その動きに隙はない。やはり『宵闇に瞬く閃光』は身体能力向上系の最高峰。

 近接格闘なら、満月下の吸血鬼相手でも互角以上の戦いが可能だ。

 しかし。その強さが抱える最大の懸念要素はすでに、その身を侵し始めていた。

 固有進化魔術の同時使用は、術者の魔力をすさまじい速度で食い尽くす諸刃の剣。

 翔馬は確信してしまう。間違いない……もう、長くはもたないッ!

 対してアリーシャは押していく。勢いのままに、気迫のままに。


「はああああああああああ――――――――ッ!!」


 翔馬は意識を集中して攻撃をかわし、そのまま右拳で反撃を叩き込む。

 そして、その目を見開いた。


「な、にぃッ!?」


 なんとアリーシャはダメージを受けながらもその場で踏みこたえ、半ば強引に翔馬へ衝撃波を打ち込んできた。


「ぐ、はあっ!!」


 二人は大きくよろめいた。しかしそれは、きっかけとなる。

 翔馬の右拳がアリーシャの肩口に突き刺さる。アリーシャの左手が翔馬の腕を弾き飛ばす。

 翔馬のミドルキックが脇腹を打つ、しかしアリーシャは強引に翔馬の頬に拳を叩き込んでいる。

 翔馬のハイキックを首元に食らったアリーシャは、同時に翔馬の胸元を切り裂いていた。

 互いに体勢を崩しながらも、視線だけは絶対に外さない。


「オラァァァァァァァァァァァァ――――――――ッ!!」

「ハァァァァァァァァァァァァァ――――――――ッ!!」


『宵闇に瞬く閃光』によって弾ける粒子と、あふれ出す魔力によって生まれる光の軌跡がぶつかり合い、荒れ狂う。

 もう後のない二人は防御を忘れ、戦いは乱打戦になっていた。

 狙いはただ一点。相手を大きく崩して決めの一撃を叩き込むことだけ。

 だが、今夜は満月。世界の全てが吸血鬼を愛する夜。

 衝撃波を伴う一撃が、翔馬の胸元を再び切り裂いた。


「ぐっあああああッ!!」


 ここでアリーシャの気迫がついに、低下していく翔馬の魔力を上回った。

 翔馬は自身へと歩み寄って来る敗北の影を、ハッキリと感じ取る。

 押され、るっ! このままじゃもう……もたないッ!!

 防戦一方になっていく戦い。翔馬は、それでも戦い続ける。


「くらえぇぇぇぇぇぇぇぇ――――――――ッ!!」


 必死で放った一撃が、見事に吸血鬼を捉えた。

 しかし同時にアリーシャも、拳を翔馬へ打ち付けている。


「ぐ、ああッ!」


 無常にも、翔馬の魔力は尽きかけていた。

 対して今夜、アリーシャの魔力は尽きることなどない。その衰えを知らない勢いが、いよいよ翔馬を追い込んでいく。

 風向きは完全に、吸血鬼の背を押していた。


「あ、が……ッ!」


 翔馬の腹を、吸血鬼の放った拳が、衝撃が突き抜けていく。

 もはや両者の優劣は、誰が見ても明らかだった。

 だがそれでも、それでも翔馬は倒れるわけにはいかないのだ。

 ……今ここで俺が敗れれば、そこで終わりだ。

 吸血鬼との戦いは、もうとっくに自分を守るためだけのものじゃなくなった。

 もう一度『風花』として胸を張りたいと言った、その瞬間の目を、声を。

 忘れることなんてできない。

 風花にとって吸血鬼との戦いは、暗闇の中に見つけた一筋の光。

 吸血鬼事件の共犯者にまでなってくれた孤独の機関員。風花まつりの唯一の希望。

 それがこの機会を失えばどうなる? あの夜俺を助けてくれた風花はどうなるっ!?

 機関への復帰、そして祖父の無実を証明するには、吸血鬼の打倒が必要なんだッ!!


『必ず行くから』


 風花はそう言った。一緒に吸血鬼を倒すと約束した。

 だから風花は絶対に来る。

 それまで俺は、倒れるわけにはいかないんだッ!

 絶対に! 絶対にィィィィッ!!

 風花が、前を向いていられるようにっ!!

 限界など、とっくに超えていた。それでも、翔馬は戦い続ける。

 だがその思いに反して、反応が、動きが精彩を欠いていく。もはや守りすらままならない。

 一撃、また一撃と、アリーシャの放つ攻撃が翔馬を捉えていく。

 体勢が大きく後方へと崩れる。敗北の影はついに、その手で翔馬の肩をつかんだ。

 それでもまだ、翔馬は諦めない。

 ……まだだ。まだ、戦える。

 翔馬の蹴りがかわされ、アリーシャの攻撃が腹にめり込む。


「まだだ!」


 後方へと大きくよろめく翔馬。それを見てアリーシャはさらに連続で打撃を叩き込んだ。


「まだだッ!!」


 そして強烈な掌打で、翔馬を弾き飛ばす。


「まだ、だァァァァァァァァ――――ッ!!」


 地面を派手に転がった翔馬は、それでも必死に体勢を立て直す。

 しかしその一撃は、あまりに重かった。

 すでに翔馬には、速さも、鋭さも、そしてアリーシャの一撃を受け切る力も残っていない。

 吸血鬼はそれを逃さない。アリーシャは一気に翔馬へと襲いかかる。


「終わりだぁぁぁぁっ! 九条ォォォォォォォォォォ――――――――ッ!!」


 勝敗は、今ここに決しようとしていた。

 それは、全ての終わり。

 だがそれでも翔馬は、うつむくことも、視線を下げることもしなかった。

 すべてが尽きようとしている中でも、顔を上げ、目を開き、最後の最後まで絶望的な状況に抗い続け――――そして。だからこそ。

 その瞳が、捉える。

 暗闇の中に瞬く、たった一つの輝きを。

 ……勝負を賭けるならもう、このタイミング以外にない。

 崖っぷちの翔馬は決断する。これを逃せば終わり。必ず、必ずここで決めるんだ!

 これが――――最後の一撃だ!!

 勝負を決めに来る吸血鬼。対して翔馬はなんと、自らその間合いへと踏み込んだ。


「なにっ!?」


 わずかだが、確かに虚を突かれるアリーシャ。


「くらえええええええええ――――――――っ!!」


 その隙を突き、翔馬は強引に左の拳打を放つ。そして吸血鬼へと、背を向ける。

 輝く、魔封宝石の光。

 加速バックハンドブロー。それは分かっていても止められない超速打撃。


「そう何度も同じ手にぃぃぃぃぃぃぃぃ――――ッ!!」


 アリーシャは身体を大きく後方へそらす。

 しかし次の瞬間に訪れたのはウソのような微風。アリーシャの髪がわずかに揺れる。


「……はっ?」


 翔馬はその場でただくるりと一回転。

 なんとこの勝負どころで、大胆にもアリーシャの裏をかいてみせた。

 そして本当の狙いは、ここから放つ魔封宝石の完全開放。

 翔馬は強く引いていた右手を、鋭い踏み込みと共に振り抜いていく!


「――――あまいッ!!」


 しかしアリーシャはそれにすら対応してみせた。

 魔封宝石の開放による一撃を、全力で回避にかかる。

 そして見事、翔馬の『空っぽの』右拳をかわすことに成功し……再び驚愕する。


「な、にッ!?」


 目の前を、翔馬が投げた魔封宝石が、まるで場違いな速度でくるくると舞っていた。

 そしてそれを、左手でキャッチする。

 それは予測をさらにもう一つ裏切る至ってシンプルで、そして予想外のフェイント。

 全力の回避を行ったアリーシャは、タイミングを外され大きく体勢を崩していた。


「ここだァァァァァァァァァァァァ――――――――ッ!!」


 翔馬は魔封宝石をつかんだ左拳を、吸血鬼へと叩き込む。

 魔封宝石がその魔力の全てを解放し、爆風がアリーシャに襲い掛かる。

 それはまるで、大さん橋の再来。

 だが、しかし――――。


「まだ……だあァァァァァァァァァァァァ――――――――ッ!!」


 アリーシャはここで『飛行』を発動。

 低空の旋回飛行をすることによって、右腕を弾かれながらも強引に暴風を回避して見せた。

 魔封宝石から解放された風は、無残にもアリーシャの横を通り過ぎていく。


「外、したっ!?」


 必殺にして決めの一撃を外してしまった。

 それはそのまま九条翔馬の敗北を意味する。

 この瞬間に、勝敗は決してしまった。

 アリーシャは確信する。これでもう、翔馬には一撃必殺を誇る武器はない。

 勝利はもはやゆるぎない。アリーシャは必殺の一撃をもって、翔馬へと特攻する!


「お前の負けだァァァァッ!! 九条ォォォォォォォォォォ――――――――ッ!!」



 ――――その時。



 迫るアリーシャの真横を、一筋の閃光が通り抜けていった。

 ベイブリッジの上を流星のように走り抜けた『なにか』

 アリーシャはまたしても、それがなんなのか分からない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る