第9話 困った時のギンさん

 ダイナミックボア…その血のように赤い毛に鉄をも貫く硬い牙という見た目や性格もさる事ながら、その行動は余りにもダイナミックなことからその名がついた猪。

 そのダイナミックな行動のせいですぐに死んでしまうため、個体数がとても少ない。ギルドでも村でも、討伐しないように喚起がされている―――


 ―――そのダイナミックボアが俺達の目の前にいる。殺すことは出来ない、逃げることは(主に『剣の流星ソード・ミーティア』のせいで)難しい。どう対応しろと。

「どうする、エイバル」

「散るしかないな。追ってきたらそいつが処理する形で。」


 いや、俺には対策に使っている物がある。しかし、よりにもよって集落に置いてきてしまった。暫く耐えてもらうしかない…か。


「なぁ、1、2分程耐えてくれないか?村からあるものを取ってくる!」

「何故?私たちには無理よ!あいつランクAの魔物よ!」


 ランクはその魔物の強さの事。段階は冒険者ランクと同じ。ゴブリンはF寄りのEだそうだ。


「ミスリルの装備一式4セットがここにある。これをやるから、耐えてくれ!」


 俺はそう言ってその場を去る。頼んだぞ…!




 どうしよう。ミスリル、この世界に来たばかりの私にその硬さは分からない。確かにゲームとかではすごく硬かったりするけど、それが当てはまるのかわからない。―――まぁ、みなさんの反応からして硬いのでしょうけど。


 ならば装備しない手はない。


「なっ…、リンちゃん何を…?」

「とにかく装備しましょう!ダイナミックボアの攻撃には耐えられるはず!」

「だが、それが偽物だという可能性は?」

「…無いです。絶対に。」


 蓮さんもといギンさんは前の世界じゃすごく聡明な人だった。嘘は基本つかないし、世界中がそれを知っている。だから、信じる。


「そうだな!ダメもとで装備しよう!どうせ鑑定出来ないんだろ!じゃあそれだけ凄いってことさ!」


 ガロンドさん…!


「…チッ、じゃあ、そうしようか。」


 今舌打ちしたよね絶対。とかやってるとダイナミックボアが突進してきた。咄嗟にガロンドさんがミスリルの大盾を構えて防ぐと―――牙が折れた。あの鉄をも貫く牙をだ。


「なっ…」

「嘘だろっ…!」

「本物か…それはそれで面倒くさいわねぇ…」


 うわぁ…痛そう…現にダイナミックボアは苦しそうにもがいている。―――と言うか、迂闊に受けられないじゃんコレ…


 まあ、有難く受け取っとこう。杖と盾は装備し、それ以外は仕舞う。今は最低限で十分だ。男の居る所で着替えたくはないし。とりあえず私は聖イシリア教の一般神術、ホーリー・ロックを唱える。神聖な光によって、相手を束縛する神術。発動は簡単だ。祈りを捧げ、技名を唱えるだけ。信仰があるとより強力になるみたいだけど、今は必要なし。魔力ベースだしね。


「ホーリー・ロック…うわっ…」


 ―――ダイナミックボアが身動きひとつ取れなくなりました。強すぎです。告訴します。とかやってるうちに来るんじゃかいかな?


「すまん遅れたっ!」


 ―――やっと戻ってきた!これで勝つる!


「ほぉらこんちくしょう!」


 そう言って投げつけたのは謎の魅惑の物質。


 ―――え?それだけ?

 それだけの為にあの人はこの場から去ったの?

「…おい」




 知ってた。具体的にはこの後どうなるかまで。とりあえず俺はダイナミックボアに投げつけたものについて説明する。

 あれは実はすごいもので、本能に直接訴えかける形で見た者を魅了し、手に入れようとするという何でもなさそうで実は大分レアなエンチャント、後序に5分で手元に戻るエンチャントがされている。これらのエンチャントは、専用の作業台が無いと付けられないから、一旦村に戻らせてもらった。―――作業台つくれ?ああ、その発想はなかった。

 説明したら疑問は持ってるみたいだが、一応は納得してくれた様で、お咎め無しとなった。酷くない?何で咎められなきゃいけないのん?




 まあ、そんなこんなあって、無事森を抜けられた。王都はすぐそこにあるらしいから、歩いて帰るそうな。

 ―――俺はリンちゃんのマスマホのLINEもどきアプリにこう送信した。


『隠密で王都に付いていく。ギルドへの説明のためにね。』

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