第18話 『きぎょー秘密』


「一発芸で真のリーダーを決めたいと思いますっ!」

 

 思います――……います――……ます――。


 私の声が、天高らかに響きわたる。

 ゾンビさん達が一斉にこちらを向く。

 今にも手が出そうなヌクミズさん達も注目してくれた。

 

「い、一発芸だぁ? そんなもんでリーダーを決められるのかよ。だって一発芸だぜ?」


 たかが一発芸だとバカにしているような鳴ちゃんに、私は言う。


「チッチ、鳴ちゃん、一発芸を舐めちゃいけないよ。宴会で尊敬の念を集めるのはいつだって一発芸に長けた人なんだよ。そういう人は大抵、仕事だってできる人なんだ。正にリーダーに相応しいのだっ」


「何だか強引に結び付けた理論のような気がしますが……つまりまほろさんの言いたいことは、一発芸で多くの歓声を得た方がリーダーということですね」


「そうだよ、栞ちゃんっ。これであと腐れなし、場はまーるく収まるってわけ」


「そんなにうまくいくかぁ。……まあ、こいつらがそれでいいって言うならいいけどさ」


 鳴ちゃんにこいつらと言われたリーダー候補が顔を見合わせている。

 そして同時に頷いた。


 うん、やる気漲ってるねっ!



 ◇



 一発芸用の道具探しに、ショッピングモールへと向かう三人の候補。

 その背中を見送ったあと、スズちゃんが聞いてくる。


「いっぱぁつげいってぇ、なあぁに?」


 スズちゃんは三つのグループのどこにも属してなくて、私達のレジャーシートに座っていた。

 ここがいいって言ってくれたんだけど、なんか嬉しーよ。

 親友が増えたみたいでさっ。


「一発芸っていうのは、えーと……場を盛り上げるための短時間の芸、かな」


「……」


 いまいち理解できていないのか、首を傾げるスズちゃん。

 ヌクミズさん達が理解できていたのは、生前にやっていたからなのかもしれないね。


「スズ、つまり……こういうことだっ」


 鳴ちゃんが例のゾンビ顔を作ってスズちゃんに見せる。


「……」


 無反応のスズちゃん。

 お寒い空気が私達を包み込んだとき、栞ちゃんがスズちゃんを呼んだ。

 栞ちゃんは私と鳴ちゃんに背中を見せると、スズちゃんにだけ顔を向けてこう言った。


「つまり、こういうことですよ、スズさん」

 

 栞ちゃんが両の頬を押さえた三秒後、


「ぶ、ぶふふぅ」


 スズちゃんが笑った。

  

 栞ちゃんっ! 一体全体どんな変な顔したのっ!? 


「おおっ、スズが笑ったぞっ! 栞、お前どんな顔したんだよっ?」


 私と同じ疑問を抱く鳴ちゃんが聞く。

 栞ちゃんはいつも通りの可憐な顔をこちらに見せると、柔和な笑みを携えて言った。


「企業秘密ですよ」


 どこの企業っ!?

 てゆーか、なぜに変顔限定……?





 ◆第19話 『勝負の一発芸(ナカヤマさん編)』へ続く。

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