第83話『恋人堪能』

 ダブル・ブレッドの件について区切りがついたので、お母さんの運転する車ではなく徒歩で帰ることに。ただ、今日は沙耶先輩が私のお家で泊まりたいということなので、先輩と一緒だ。手を繋いで沙耶先輩と一緒に歩いている。


「琴実ちゃん、急に泊まりたいって言ってごめんね」

「いえいえ、気にしないでください。お母さん、とても喜んでいましたので」


 車で送り迎えする必要がなくなって、沙耶先輩が泊まりに来ることを電話で伝えたら、お母さんは嬉しそうな声で分かったと言っていた。

 沙耶先輩も梢さんに私の家に泊まることと、私と恋人として付き合うことを伝えると、すぐに「おめでとう!」と祝福のメッセージが返ってきたそうだ。


「わがままを言っちゃうと、今日だけじゃなくて週末はずっと琴実ちゃんと一緒にいたいかな」

「……私も同じです」


 沙耶先輩の手をより強く握る。今も肌寒いけれど、手から伝わってくる沙耶先輩からの温もりだけで寒さが気にならない。むしろ、寒いおかげでこの温もりが愛おしくてありがたいというか。沙耶先輩と一緒にいるんだとより実感できる。


「沙耶先輩と一緒にこうして歩くことができて嬉しいです」

「そうだね。車は楽でいいけど、風とかを感じながらゆっくり歩くのもいいよね。今日に肌寒くても歩くと温かいし」

「それはそうですけど、沙耶先輩と一緒だから嬉しいというのもあってですね」

「……可愛いね、琴実ちゃん。私も琴実ちゃんと一緒にいることができて嬉しいよ。大好きな恋人と一緒にいられるんだから」

「そう言ってくれて幸せです」


 きっと、今……ニヤニヤしているんだろうなぁ。外でこんな表情をしちゃうなんて恥ずかしいけれど、それよりも恋人になった沙耶先輩と一緒にいられる嬉しさの方が勝る。

 そういえば、今日は沙耶先輩が私の家に泊まるんだよね。しかも、沙耶先輩とは恋人として付き合うことになったし。どんな時間を過ごすことになるのか、今からドキドキが止まらないよ。


「琴実ちゃんの手、とても温かいね」

「そそうですか?」

「うん。それに、顔もさっきと比べると赤くなっているような気がする」

「歩いて体が温まってきたからだと思いますよ! むしろ暑いくらいです」

「確かに、私も学校を出たときに比べると体が温かくなってきたかな。琴実ちゃんの頬、柔らかくて気持ち良さそうだから触ってみてもいい?」

「いいですよ」


 沙耶先輩に両頬を触られる。私と手を繋いでいた左手は温かいけれど、右手はひんやりとしていた。


「あぁ、温かくて柔らかいね。気持ちいい」

「先輩の右手もひんやりしていて気持ちいいですよ」

「……それは良かった」


 沙耶先輩は優しい笑顔を見せてくれた。ほっこりとした気持ちになる。

 しかし、そんな中で強い風が吹く。


「きゃあっ!」


 私はとっさにスカートを抑えたけれど、沙耶先輩は依然として私の頬に触れたまま。


「スカートを抑えることよりも私の頬ですか」

「だって、とっても気持ちいいんだもん」

「今の風で私のパンツを見るチャンスだったのに」

「あれ、朝に言わなかったっけ? 今日は寒いから、強風でスカートをめくれたときにパンツを見るのは止めようって」

「……そういえば、そんなことを言っていたような気がします」


 その言葉をきっちりと守るなんて。やっぱり、先輩は基本的に真面目なんだなぁ。


「そうだよ。覚えていてくれたんだね。今の風も結構寒かったから早く帰ろうか」

「はい」


 行き先は私の家なのに「帰ろうか」と沙耶先輩が言ってくれることが嬉しくて。家までの一歩一歩がとても温かく思えた。

 私は沙耶先輩と一緒に家に帰る。

 沙耶先輩が一緒だと伝えていたからか、お母さんが玄関まで出迎えてくれた。そのときに沙耶先輩と付き合うことになったことを話すと、お母さんはまるで自分が付き合うかのように喜んでいて。昔、お父さんの方から告白したと聞いたけど、きっとそのときも今みたいな笑顔になったんだろうな。

 沙耶先輩と一緒に自分の部屋に行き、ようやく2人きりになれた気がした。


「琴実ちゃんの部屋に来るのも1週間ぶりか。もっと前のように感じるよ」

「盗撮のこともあって、今週はずっと送り迎えしてもらっていましたもんね。それまでは私のベッドに潜ってパンツを堪能されていましたけど」

「好きな人のベッドには潜りたくなるし、パンツも堪能したくなるじゃない」

「先輩らしい名言ですね」


 いや、迷言っていう方が正しいかも。

 そんなことを思いながらバッグを勉強机の上に置いたとき、後ろから抱きしめられる。


「ねえ、琴実ちゃん」

「何ですか?」

「……みんなの前だと緊張しちゃうから、生徒会室ではあんなにさらっとした感じで告白しちゃったんだ」

「そうだったんですか」


 沙耶先輩はいつも爽やかな笑みを浮かべているし、クールなところもあるから、みんなの前でも平気だと思ったけど。何だか意外で可愛らしい。


「でも、そう言っておきながらキスはしましたよね?」


 そうからかって振り返ると、沙耶先輩は照れた様子で私のことを見て抱擁を解いた。


「あれは……その、京華に自分の想いをしっかりと伝えたかったんだ。琴実ちゃんに気持ちを確かめずにしちゃってごめんね。もし、初めてだったら……」

「ええ、あれが初めてでしたよ。でも、そういう理由でしたら、あのときのキスはノーカウントでいいです。ちなみに、沙耶先輩は?」

「……私もあのときが初めてだったよ」

「そうなんですね。……嬉しい」


 あの感触を唇で知っているのが私しかいないと思うと。この先もずっとそうであってほしいな。


「琴実ちゃん。改めて……今度はしっかりと告白させて」


 すると、沙耶先輩は私の右手をぎゅっと握り、私のことをじっと見つめてくる。


「私は琴実ちゃんのことが好きです。優しくて、温かくて、パンツも私好みで」

「パンツが自分好みって先輩らしいですね」

「重要なことだと思うけどね。そんな琴実ちゃんが大好きだから、恋人としてこれからもずっと一緒にいてくれますか。一緒に幸せになってくれますか?」

「もちろんですよ、沙耶先輩。私も優しくて、いつも変態な沙耶先輩のことが大好きですから。私こそ……沙耶先輩の恋人にしてください」

「ありがとう、琴実ちゃん」


 沙耶先輩は私のことを包み込むようにしてそっと抱きしめてきた。

 沙耶先輩の温もり、匂い、柔らかさ……全部好きだ。夢なんじゃないかって思えるくらいに、幸せな気持ちに浸っている。


「琴実ちゃん」

「……沙耶先輩」


 沙耶先輩と見つめ合うと、自然と先輩の顔が近づいているのが分かった。私からなのか、それとも先輩からなのか、はたまたお互いになのか。それはよく分からない。どうでも良かった。

 まるで沙耶先輩に吸い込まれるようにして先輩とキスをした。しっかりと告白された後だからか、あのときのキス以上に愛おしくて、ドキドキする。

 やがて、沙耶先輩の唇が離れたので、


「……もっと」


 そう呟くと沙耶先輩が再び唇を触れてきてくれる。ただ、触れているだけでは我慢できないのか、私の口の中に入り込んできて。今までの中で一番甘く感じる。

 これでもかってくらいにキスしてから、沙耶先輩と目が合うと照れくさくて。ただ、とても嬉しかった。沙耶先輩も同じ気持ちなのか頬を赤くしながらもにっこりと笑っていた。


「好きだって気持ちを確かめ合ってからするキスっていいね」

「ですね。先輩への好意がどんどん大きくなってます」

「……私もだよ。ねえ、琴実ちゃん……お願いがあるんだけど」

「何ですか?」

「……琴実ちゃんのパンツを堪能したいんだけど。あと……パンツの中身も。琴実ちゃん自身を堪能したいんだ。家にいるとき、どんな感じなのかたまに妄想してた」

「沙耶先輩ならそう言うと思っていました。本当に……底なしの変態さんですね。いいに決まっているじゃないですか。その代わり、沙耶先輩のことも堪能させてくださいね?」

「約束するよ。じゃあ……琴実ちゃん、いただきます」

「はい。どこからでもいいので召し上がってください」



 私は沙耶先輩とお互いのことを堪能し合った。もちろん、パンツもね。

 沙耶先輩と2人きりでいるときはずっと体が触れているような気がして。これまではクールな印象が強かった沙耶先輩も凄く可愛い人であることが分かって。愛おしい気持ちは膨らんでいくばかり。沙耶先輩も同じだったら嬉しいな。



「堪能し合っちゃったね、琴実ちゃん」

「……はい。全身で沙耶先輩がド変態であることを知りました」

「あははっ、変態って言葉は私にとっては褒め言葉だよ。今日の琴実ちゃんのパンツも良かったし、琴実ちゃんの柔らかくて大きな胸もやっぱり私好みなんだなって分かった。あと、そう言う琴実ちゃんだってなかなかの変態だと思うな。さすがは私の恋人であり相棒だ」

「それは……沙耶先輩が可愛いからですよ。普段とのギャップが凄いです。沙耶先輩の可愛らしい声をたくさん聞くことができましたし」

「琴実ちゃんほどじゃないって。あんなに声が出たのは……琴実ちゃんが私を気持ち良くさせるのが上手だからなんだよ。堪能し合っている中で、琴実ちゃんのことがもっと好きになった。好きだよ、琴実ちゃん」

「私も大好きです、沙耶先輩」


 ベッドの上で横になった状態で私達は抱きしめ合ってキスした。これで何度目か分からないくらいに、今日はたくさんしたなぁ。それでも飽きること全くなく、むしろいつまでもしたいと思える。


「……そろそろ寝ようか、琴実ちゃん」

「そうですね。今夜はいい夢を見ることができそうです」

「私もそんな感じがするよ。じゃあ、おやすみ、琴実ちゃん」

「おやすみなさい、沙耶先輩」


 もう一度キスして、沙耶先輩に見守られながら私はゆっくりと目を瞑る。すると、疲れからなのかどっと眠気が襲ってきて、ほどなくして眠りにつくのであった。

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