第77話『分裂』
「白布女学院の風紀については……ダブル・ブレッドの会長である私・ブランが指揮をとらせていただきます」
千晴先輩の口から、自分がブランであることを明言した。そのことが衝撃的すぎて、今の先輩に対する言葉が全く思いつかない。みんなも黙り込んでしまったから、まるで時間が止まってしまったような気がして。
しかし、風紀委員の中で、ダブル・ブレッドを最も敵視する発言をしていた千晴先輩がブランだなんて。まさか、今までの千晴先輩は演技だったの?
「まさか、千晴先輩がブランなの? 信じられないよ……」
ひより先輩のそんな呟きによって、ようやく時間が流れ始めたような気がした。今の彼女の言葉は千晴先輩以外の風紀委員全員の想いだろう。
すると、沙耶先輩は千晴先輩の両肩を掴んで、
「藤堂さん。私は君がブランだとは信じていないよ。本物のブランに何を言われたんだ。私達に事実を話してほしい」
真剣な表情をしてそう言った。
短い間だけど、今までの千晴先輩を思い返すと、彼女がブランであるとは思えない。先輩が学校を休んでいる間に本物のブランが何かをしたんだ。その結果、千晴先輩はダブル・ブレッドの会長であるブランだと名乗っているんだと思う。
すると、千晴先輩はクスクスと笑って、
「本物のブランに何を言われたか? そんなことはどうでもいいでしょう? 大切なのは、今、この瞬間……私がダブル・ブレッドの会長のブランであること。そんな私は多くのメンバーを率いているということですよ」
すると、千晴先輩は部屋の扉を開ける。
「廊下を見なさい。これが現実ですよ」
廊下には何があるというんだろう。先輩の言うように、私達は入り口から廊下を見てみると、こちらを敵視している生徒がたくさんいたのだ。
「ダブル・ブレッドにはこんなにたくさんのメンバーがいたのか。毎日、見回りもきちんとしていたのに全然気付かなかったよ」
「彼女達も学生ですから、普段はそれぞれの学校生活を送ってもらっていますからね。今年度に入ってからは、少しずつ組織の活動をしてもらうようになりましたが……」
どうやら、ダブル・ブレッドはメンバーの普段の生活を大事にしているようだ。少人数で動いていたから、私達が見回りをしても気付かなかったのかも。今の千晴先輩の言い方だと活動していない日もありそうだ。
「今まではネット上だけでの繋がりでしたが、風紀委員会がダブル・ブレッドを崩壊させようと警察を使ってまで動いている。結束を強めて風紀委員会を崩壊させるために、実際にここまでメンバーには来てもらったのですよ」
「なるほどね。でも、ダブル・ブレッドを崩壊させたいと一番に口にしていたのは藤堂さんだよね」
「あれは……ああでも言わないと、あなた達に怪しまれると思ったからですよ!」
確かに、ダブル・ブレッドを認めている千晴先輩は想像ができないな。ただ、あれも演技だったら……千晴先輩は相当な役者だな。心底嫌がっているように思えたから。
「話を戻しましょう。彼女達はダブル・ブレッドのメンバーであり、将来の風紀委員候補でもあるのです。朝倉さん達に変わる……」
「私達は断固として風紀委員を辞めない! そもそも、風紀委員長の一存で委員会メンバーを辞めさせるかどうかを決められる校則はないよ」
「……そうですか。なら、また朝倉さんには痛い目に遭ってもらわなければなりませんね。もちろん、琴実さん達も。まあ、愛おしく思っている朝倉さんが私の恋人になってくれるなら話は別ですが。そうすれば、みなさんを痛い目に遭わせることは止めましょう。あなたの態度次第では、みなさんもこのまま風紀委員会のメンバーでいてもいいですよ」
どうですか? と、千晴先輩はうっとりとした表情をして沙耶先輩の両頬に触れる。
「愛おしいって……藤堂先輩、朝倉先輩のことが好きなの?」
「どうやらそうみたいだね、唐沢さん」
「その通りですよ、ひよりさん、唐沢さん。まあ、朝倉さんは私からの愛の告白を断りましたけどね……」
風紀委員会メンバーを危険な状況に追い込ませることで、自分の思い通りにしようとしているのか。それも本物のブランの狙いなのか。
「あなたにフラれたショックというのも理由の一つですが、どうすれば朝倉さんを私のものにできるかずっと考えていたんですよ……」
「そのために、ダブル・ブレッドのメンバーや琴実ちゃん達を巻き込んだってことか。言っておくけど、こんなことをしてまで私を自分のものにしようとする藤堂さんは嫌いだよ」
「……それがあなたの答えなのですね。それなら――」
「止めなさい、千晴ちゃん」
すると、部屋の入り口には秋川先生と東雲先生が立っていた。
「入り口のところで、藤堂達の話を聞かせてもらったよ。あと、廊下にいるダブル・ブレッドのメンバー達はそれぞれの教室に行かせた。もちろん、変なことは一切するなって忠告しておいたよ」
いつの間に廊下でそんなことをしていたんだ。全然気付かなかったよ。
「先生の言うことは聞いてしまうのですね、彼女達は。まあ、この学校の生徒ですから、それは仕方のないことでしょう」
「そういう藤堂だって白布女学院の生徒だろう。藤堂……本当にお前がブランなのか? 本物に吹き込まれて、ブランを演じさせられているだけなんじゃないのか?」
「東雲先生も同じことを訊くのですか。くだらないことです。大事なのは今、ダブル・ブレッドの会長のブランは私・藤堂千晴であるということでしょう」
さっきと同じことを言っているよ、千晴先輩。
ただ、千晴先輩がブランであることを自ら明言しても、東雲先生や秋川先生は落ち着いていた。
「……そうか。藤堂がブランなのか。実は、ダブル・ブレッドの会長のブランには学校と警察から訊きたいことがたくさんあるんだよ。とりあえずは私と話をしないか。生徒指導室でたっぷりとね。おそらく、その後は正式な処分が決まるまでは自宅謹慎してもらうことになるから」
「そして、ダブル・ブレッドの一件が解決するまで、風紀委員長は沙耶ちゃんに、副委員長はひよりちゃんに務めてもらいます。もちろん、千晴ちゃんは風紀委員会の活動に参加してはいけません。これは風紀委員会顧問としての命令です」
先生達がそう言うと、千晴先輩はふっと笑った。
「いいでしょう、ここは学校ですからね。今は先生方の言う通りにした方が無難でしょう。良かったですね、首の皮が一枚繋がって」
「恵先生や東雲先生が言うことは当然だと思うよ。それに、私達は藤堂さんが本当のブランじゃないって信じているから」
沙耶先輩のその言葉に千晴先輩は黙り込んでしまった。ただ、頬を赤らめて視線をちらつかせているので、沙耶先輩の言葉が響いているのは確かなようだ。千晴先輩は東雲先生と一緒に活動室を後にした。
「恵先生、ありがとうございました。恵先生と東雲先生がいなかったら、今頃……私達はどうなっていたか分かりませんでした」
「いいのよ。今日は千晴ちゃんの親御さんから連絡がなかったから、登校しているかどうか確認するために真衣子さんとここに来たの。そうしたら、活動室の周りにたくさんの生徒がいるから話を聞いたら、ブランが千晴ちゃんだって言われて……」
「何度も言っていますが、私は藤堂さんがブランだとは思っていません。言い方は悪いですけど本物のブランによって、私達にブランとして相手するように洗脳されたんだと思います」
「そうだと思いたいね」
もし、沙耶先輩の言うことが本当だとしたら、ブランは千晴先輩のことをよく知っている人である可能性が高い。もっと言えば、千晴先輩の現状を知っている人。
「みんな、ごめんなさい。私、生徒会長なのに何も言えなくて……」
会長さんは申し訳なさそうな様子でそう言うと、私達に向かって深く頭を下げた。
「気にしないで、京華。それに、風紀委員の子をダブル・ブレッドから守るのは私の役目なんだ。先生方の力を借りることになったけど、とりあえずあの状況を何とか切り抜けることができて良かった」
「……そうだね」
「まあ、京華は生徒会長として見守っていてくれると嬉しいな。だから、今は生徒会の方に専念して。何かあったら連絡するからさ。あと、ブランは生徒会を支配する可能性もあるから気を付けて」
「分かったわ」
もし、風紀委員会を支配できていたら、今度は生徒会を支配していた可能性は高そうだ。失敗した今、生徒会の方から支配して風紀委員も支配する流れに変える恐れもありそうだけど。油断はできない。
「とりあえず、一旦……それぞれ教室に行きましょう。これからどうするかは昼休みに話すことにしようか。もちろん、無理はしないでね」
秋川先生のその一言で一旦解散し、私は理沙ちゃんと一緒に教室へと向かう。
ただ、千晴先輩のことが頭から離れないので、午前中の授業は全然集中できなかったのであった。
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