第43話『眠るあなたは芳しい』
4月16日、土曜日。
ゆっくりと目を覚ますと、昨日と同じ温もりと匂いに包まれていた。部屋の中は結構明るいけれど、今の時期は結構早くから陽が出ているし。
いつの間にか、ふとんをはいじゃっていたんだ。沙耶先輩と一緒に寝たから暑くなってふとんを蹴飛ばしちゃったのかな。
「うんっ……」
沙耶先輩、まだ寝ているのか――。
「えっ!」
沙耶先輩の方を見ると、そこには……スウェットのズボンを脱いで、シャツの方も胸がちょっと見えるくらいのところまではだけていたのだ。そっか、先輩は寝るときにブラはしないって言っていたっけ。
一緒に寝たから暑くて寝ている間に脱いじゃったのかな。それとも、私とくっついて寝たことで自然と脱げてしまったのか。
「琴実、ちゃん……」
「は、はいっ!」
大きな声で返事をしてしまったけど、沙耶先輩はぐっすりと眠っている。今のは寝言だったんだ。凄く恥ずかしい。
それにしても、昨日、お風呂で沙耶先輩の裸を見たのに……今の先輩の方がよっぽどえっちな感じがして。そういえば、沙耶先輩のパンツ姿を間近で見たのは初めてかも。でも、私の白と青の縞模様パンツを穿いてくれているのは嬉しいな。
もうちょっと見ていたいけど、このままだといけないよね。ズボンを穿かせるのは無理そうだから、とりあえずはふとんを掛けて――。
「ううん……」
沙耶先輩はそう声を漏らすと、私の左腕をぎゅっと掴んできた。そのことで私の腕が先輩の胸とお腹に触れてしまう。腕全体に柔らかい感覚が。肌と肌が直接触れるってこんなにもドキドキしちゃうものなの? ど、どうすればいいんだろう?
「んっ……」
指を動かしたら沙耶先輩のお腹に当たってしまう。そのことで先輩の可愛らしい声が漏れて、温かな吐息が顔にかかる。さらにぎゅっと私の腕を掴んで、先輩の頭が私の肩に乗る。
「ていうか、本当にどうすればいいの……」
この状況を変えるために一番いいのは、沙耶先輩を起こすこと。でも、私の腕を抱き枕代わりにして、こんなにも気持ち良く眠っている沙耶先輩を起こすのもかわいそうな気がして。
「二度寝しよう」
動けないなら寝ればいい。今、何時なのかは分からないけど、今日は土曜日だからいつ起きても大丈夫。
とりあえず、寝るためには心を落ち着けよう。落ち着け、落ち着け。
「んっ……」
肌の露出度が高い状態の沙耶先輩が密着して寝ていても、沙耶先輩の寝息が顔に掛かっていても、沙耶先輩の漏らす可愛らしい声が聞こえたら――。
「二度寝なんてできないよ」
好きな人が触れている中で眠ることなんてできない。それに、眠っている沙耶先輩は滅多に見ることができないんだから、ここで眠ってしまったら損かもしれない。
「おねえ、ちゃん……」
お姉ちゃんって私のこと? それとも実のお姉さんのこと? 昨日、寝る直前にふざけて私のことをお姉ちゃんって言っていたから、どっちなのか分からない。
「こずえ、おねえちゃん……」
こずえお姉ちゃん? もしかして、沙耶先輩のお姉さんのことかな。
「……嫌なの」
何か嫌な夢を見ているのは間違いなさそう。その証拠に先輩……ちょっと不満そうな表情を浮かべている。
「下着姿の琴実ちゃんをもふもふしていいのは、私だけなの……」
沙耶先輩の夢の中では、下着姿の私が先輩のお姉さんにもふもふされているの? 先輩らしい夢だけど。
「琴実ちゃん、こっちおいで……」
私の腕を抱き枕代わりにしているのに、夢の中では私のことを呼んでいるんだ。しかも、まるで私がペットであるかのように。
「……ちゃんとこっちに来て偉いね、琴実ちゃん。でも、お仕置きだよ。今穿いているパンツを脱いで私に渡しなさい!」
「だめええっ!」
早く沙耶先輩のことを起こさなくちゃ! そうしないと、先輩の夢の中で私……先輩に裸も見られて、脱ぎたてパンツを堪能されちゃう!
――すっ。
私は右手の人差し指で、沙耶先輩の脇腹を撫でるようにして触った。すると、
「ひゃあっ!」
そんな可愛らしい声を挙げながら、沙耶先輩は目を覚ました。その直後に私の左腕が沙耶先輩から解放される。
「ビックリした」
沙耶先輩は目を見開いて、私のことをじっと見る。
「おはようございます、沙耶先輩」
「ど、どうしてそんなに怒っているのかな。もしかして、私……寝相が悪くて琴実ちゃんに迷惑掛けちゃった?」
「寝相は気にしてません。でも、沙耶先輩の寝言を聞いていたら、先輩が見ている夢が気になっちゃったんです! 下着姿の私が先輩のお姉さんにもふもふされているからって、その罰で私のパンツを脱がせようとするなんて!」
「そんなに幸せな夢を見ていたんだ。何だかいつもよりいい目覚めなのはそのおかげでもあるか。もちろん、琴実ちゃんと一緒に寝たことが一番だと思うけど。目を覚ますと夢って忘れちゃうんだよね。そっかぁ。じゃあ……続きを見るために二度寝しないと」
「ダメです!」
再度、私は人差し指で沙耶先輩の脇腹を撫でる。
「あっ、脇腹弱いんだよ、私……」
「変態な夢を見ようとしたのでお仕置きです」
「……ごめんなさい」
なるほど、沙耶先輩は脇腹が弱いんだ。覚えておこう。今後、パンツのことで執拗に求めてきたときの有効な防護策になりそうだから。
「それにしても、私……こんな恰好になっていたんだ。もしかして、琴実ちゃんがこうしたの?」
「そんなわけありませんよ、沙耶先輩じゃないんですから。10分くらい前に眼が覚めましたけど、そのときには今のような感じで」
「なるほどね。まあ、琴実ちゃんと一緒に寝たから暑くなって、眠っている間に脱いじゃったって感じかな」
「そういうことです」
良かった、誤解されずに済んで。
「それよりもどうかな? このパンツ、私に似合ってる?」
「……似合ってますよ」
黒いパンツを穿いていることが多いから、結構可愛らしく思える。
「いつもは私が琴実ちゃんのパンツを堪能するのに、今日は琴実ちゃんが私のパンツを堪能するなんてね」
「堪能って……見ただけですよ。まあ、その……沙耶先輩が私の腕を抱き枕にしたので、図らずとも温もりは感じましたが」
「……そっか」
私はパンツよりも少し見えた胸の方が気になっちゃったんだけどね。
「琴実ちゃん」
私の名前を言うと、沙耶先輩は私のことをぎゅっと抱きしめてきた。
「……現実には琴実ちゃんが側にいて良かった」
沙耶先輩は私を包み込むような優しい笑顔を見せる。もしかして、私がお姉さんにもふもふされていた夢を見ていたことに不安を覚えたのかな。
初めて泊まりに来た沙耶先輩と一緒に迎えた朝は、彼女の様々な一面が見られた思い出深い朝になったのであった。
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