第38話『ドキドキ直行バス-前編-』
着替えの準備をして、私は沙耶先輩と一緒に更衣室へと向かう。これから沙耶先輩と一緒にお風呂に入るんだ。
「さあ、琴実ちゃん。服を脱ごうか」
両手の指をクネクネ動かしながら、沙耶先輩はそんなことを言ってくる。
「指の動きが厭らしいですよ」
「だって、これから琴実ちゃんと一緒にお風呂に入るんだよ。興奮するじゃないか」
どうやら、最大級の警戒をしながら、お風呂に入らなければならないようだ。別々に入れば良かったんじゃないかとさっそく思い始める。
「自分で服を脱ぎますから。ほら、沙耶先輩も。脱いだ服はそこのカゴに入れておいてください」
「分かった」
私は沙耶先輩のすぐ側で服を脱ぐ。これから裸になるからか、さっき部屋で着替えたときよりも緊張する。
沙耶先輩の方をチラチラと見るけど、先輩の体……とても綺麗だな。前からスタイルいいとは思ったけど、脱ぐと凄い。
「琴実ちゃんこそ、なかなか厭らしい視線を送っているね」
「えっと、その……ごめんなさい」
「あははっ、服を脱ぐと気になっちゃうよね」
沙耶先輩はポニーテールに結っていた髪を解く。すると、先輩の髪型がストレートヘアへと変わる。結構サラサラとしている。
「先輩、髪を解くと随分と印象が変わりますね。可愛いです」
「ありがとう。元々はこの髪型だったんだけど、中学で陸上部に入ったときに髪を結んだ方が走りやすいって分かってね。一度ポニーテールにしてみたらけっこう気に入って。それからはずっとポニーテールにしているんだ」
「そうなんですか」
ということは、今の髪型をしている沙耶先輩の姿を見たことがある白布女学院の生徒はあまりいないんだ。ちょっと嬉しいかも。
「私はもう準備ができたけど、琴実ちゃんは?」
「私も大丈夫です。入りましょう」
私は沙耶先輩と一緒に浴室に入る。
「広くて綺麗な浴室だ。これなら、2人で入ってもゆったりできるね」
「そうですね」
そういえば、誰かと一緒にこのお風呂に入ったのはひさしぶりかも。お母さんと最後に入ったのも小学生のときだと思う。
「沙耶先輩の方から髪と体を洗ってください。私は湯船に浸かっていますから」
「ごめんね、先に使っちゃって」
「いえいえ。シャンプーは緑のボトルで、ボディーソープは白色のボトルに入っていますから。体を洗うときはそこに掛かっている、私の赤いボディータオルを使ってください」
「うん、分かった。ありがとね。琴実ちゃんがのぼせるといけないから、さっさと洗っちゃうね」
「そこまで気にしなくていいですよ。先輩のペースで洗ってください」
それに、髪と体を洗っている沙耶先輩の姿を少しでも長く見たいし。でも、色々な意味でのぼせてしまわないように気を付けないと。
沙耶先輩は髪を洗い始める。今の先輩を見ていてもきっと飽きないだろう。本当に綺麗な人だ。
「……琴実ちゃんって女の子の裸が好きなのかな?」
「あっ、いえ……その。ごめんなさい」
「ううん、気にしないでいいよ。私だって、裸になっている琴実ちゃんのことが気になっているし、パンツだってたくさん堪能してきているからね。そのお返しというか、琴実ちゃんなら私の体を堪能してくれていいよ」
「ふえっ? 先輩の体を堪能ですか……?」
沙耶先輩が私のパンツを堪能するときって、パンツを見たり、触ったり、嗅いだりしていたよね。同じようなことを先輩の体にしていいってことなの? そもそも、今の言葉って本当なの? 冗談なの?
「え、ええと、あの……」
色々と妄想したら、興奮してきて鼓動も段々と速くなっていくよ。
「琴実ちゃん! 顔が赤いよ! 湯船から出た方がいいんじゃない?」
「そ、そうですね……」
このまま湯船に浸かっていたら、本当にのぼせてしまいそうなので一旦、湯船から出ることにしよう。
「ほら、琴実ちゃん。掴まって」
「すみません……」
沙耶先輩が伸ばした手を掴み、湯船から出ようとしたときだった。
先輩が髪を洗ったことで、シャンプーの泡が床に付いており、その泡で足を滑らせてしまったのだ。
「きゃっ!」
「琴実ちゃん!」
幸か不幸か、何か柔らかいものに当たったので転んでも全然痛みはなかった。でも、柔らかいものってお風呂の中にはなかったような――。
「ま、まさか……」
柔らかくて、人肌くらいの温もりが感じられて、ちょっぴり甘い匂いがして。それに抱きしめられているような感覚も。
ゆっくりと目を開けると、視界が肌色に覆い尽くされていた。少しだけ顔を離すと、すぐ目の前には沙耶先輩の胸があった。
「琴実ちゃん、ケガはないかな?」
「大丈夫です」
「そっか、良かった」
見上げると、そこにはまだ髪を洗っている途中の沙耶先輩の笑顔が。そっか、転びそうになった私のことを沙耶先輩が抱き留めてくれたんだ。
「沙耶先輩、ありがとうございます」
「ケガがなくて何よりだよ。本当に良かった」
何にせよ、お互いに裸の状態で沙耶先輩に抱きしめられるなんて。また、ドキドキして来ちゃった。気のせいかもしれないけれど、私だけじゃなくて先輩からも激しい鼓動が響いているように思えた。
「今のことで、沙耶先輩の体を堪能できたような気がします。温かくて、柔らかくて、甘くて……優しいんですね」
このまま沙耶先輩にずっと抱かれていたい気分。のぼせちゃってもいいから、今の幸せな時間に浸っていたい。
「琴実ちゃん、そろそろ……離れてくれるかな。髪に付いた泡を流したいから」
「あっ、ごめんなさい」
そうだった。沙耶先輩、髪を洗っている途中だったもんね。何だか、現実に引き戻されるような感じ。
「先輩、ありがとうございます」
沙耶先輩の胸元にキスをする。唇からも先輩の体の温かさや、柔らかさが伝わってくる。すると、
「んっ……」
沙耶先輩が漏らした可愛らしい声が浴室に響き渡った。また、私のキスに驚いたのか体をビクつかせていた。
「まったく、突然そんなことをされたらビックリするよ」
沙耶先輩は顔を赤くしてはにかみながら言った。
「初めて沙耶先輩に助けられて部屋まで通したとき、先輩も私のパンツを突然堪能しようとしたじゃないですか。あのときと一緒ですよ」
本当にビックリしたんだから、あのときは。
「……そうだったんだね。でも、胸元にキスしてくるなんて……琴実ちゃんもなかなかの変態じゃない?」
「そんなことありませんよ! 私は……」
そこで言葉を止めた。勢いで「沙耶先輩のことが好きだから」って言おうとしたけど、今はダメだと思ったから。
「先輩の足元にも及ばない変態……かもしれません」
「何それ、面白いね。さあ、早く泡を落としたいから離れてくれるかな?」
「すみません」
私が沙耶先輩から離れると、先輩はシャワーで髪に付いている泡を流す。
「先輩、拭いたらクリップで留めましょうね」
「うん、ありがとう。何から何までごめんね」
「いえ、気にしないでください」
私はタオルで沙耶先輩の髪を拭いて、ヘアクリップで留めた。これで体を洗うときも髪の心配をせずに済む。
「これで大丈夫ですね」
「ありがとう、琴実ちゃん。何だか、お姉……姉さんにやってもらっているようだったよ」
「お姉さんと一緒にお風呂に入っているんですか?」
「今はさすがに入っていないけれど、小さい頃は姉さんとよく入っていたよ」
「そうなんですね」
私は一人っ子だから、歳の近い女の子と一緒に入ることってそんなになかったな。だからこそ、今回、沙耶先輩と一緒に入ることに緊張している。
「そうだ。せっかくですから、背中を流しますよ、沙耶先輩。その……今までのお礼といいますか。2回も助けてくれましたし」
「じゃあ、お言葉に甘えて。あとで琴実ちゃんの背中を流すよ。髪も洗ってあげる。私の相棒になってくれたお礼にね」
「……ありがとうございます」
こんな機会は滅多にないだろうから沙耶先輩に甘えよう。沙耶先輩に髪と背中を預けるのは危険かもしれないけど。
私は沙耶先輩の背中を流し始める。綺麗な背中にキスしたいと思ってしまうくらいだから、私も多少は変態なのかもしれない。そう思ったのであった。
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