第31話『コソコソ作戦です!』

 ふふっ、今日もブラン様に朝倉沙耶先輩の写真を送るのです。


 ブラン様が言うように、現像した写真を風紀委員会の部屋の扉に挟んでおいたのですが、風紀委員会の様子は昨日とあまり変わりないようですね。今日も朝倉先輩は折笠琴実さんと一緒に見回りをしています。

 今日も風紀委員会に見つからないように、朝倉先輩の写真を撮らないと。

 ブラン様から、同じ手ではバレるかもしれないということで、今日は動きながらの撮影をするようにと言われたのです。難易度は上がりますが、あなたならできると言われたので……その期待に応えなければ。

 しかし、今日は校舎の外の見回りですか。今の季節ですからまだいいですが、真夏や真冬では無理ですね。


「沙耶先輩、今日はこんなところも見回りをするんですか?」

「ああ。こういった人気の無いところが、校則違反のたまり場になっているんだよ。そうでなくとも、例えば……えっちなことをしちゃっていたり」

「ええっ!」

「ははっ、それは冗談だけど、他の生徒には知られたくないことをこっそりとするには最適の場所だよ。何度かここら辺で生徒を注意したことはあるかな。もちろん、それが微笑ましいことなら、見て見ぬふりをするけど」

「先輩もそういうことができるんですね」

「私だって一応女の子なんだよ」


 朝倉先輩、今日も格好いいなぁ。先輩に憧れてこの学校に入学して。だから、折笠さんがちょっと羨ましかったりするのです。

 最初は盗撮をすることに躊躇いもありましたが、一度成功するともう止まりません。スマートフォンの中に朝倉先輩の写真が入っていることがたまらなく嬉しいのです。今日も新しい写真が撮影できるようにコソコソしないと。


「あっ、先輩……お手洗い行ってきていいですか? さっき飲んだ紅茶のせいかと……」

「うん、行ってきな。あの入り口を入ったところにお手洗いがあるから。私はここで待っているから」

「分かりました」


 折笠さんはちょっと早足で近くの入り口から特別棟の中に入っていきます。今は朝倉先輩だけですか。もし、何もなければ告白したいところですが、今はブラン様から任せられた使命を果たさなければ。


「朝倉先輩!」

「あっ、唐沢さん」


 朝倉先輩に体操着姿の生徒が近づいていきます。あの赤髪のショートヘアは……そうだ、1年生の唐沢理沙さん。昨日の朝、服装チェックをやっているときに朝倉先輩は彼女のパンツを堪能していました。


「ことみんはいなくなりました?」

「ああ。さっき買ってあげた紅茶がようやく効いたみたいだ」

「わざわざこんなことをしてもらって、ごめんなさい。さすがに、ことみんでもパンツを堪能されているところを見られるのは恥ずかしくて。でも、朝倉先輩にもう一度パンツを堪能して欲しくて」

「じゃあ、昨日の朝はすまなかったね。みんなの前でやっちゃったもんね」

「いえ、いいんです。もう、過ぎちゃったことですから……」


 あの時も確かに唐沢さんは恥ずかしそうに笑っていました。あれっきりかと思いましたけど。


「琴実ちゃんが戻ってこないうちに、早くしちゃおっか」

「はい。その……ズボンなので朝倉先輩が下ろしてくれませんか? ちょ、ちょっとだけでいいですからね、外ですから」

「……分かった」


 これは撮影するのに絶好のチャンス! ブラン様は昨日のようなパンツを堪能する朝倉先輩を撮って欲しいと言われていますので。

 朝倉先輩は唐沢さんの穿いている体操着のズボンをちょっとだけ下ろします。


「へえ、今日はオレンジなんだ。可愛いね」

「……ドキドキしちゃいます。あっ……」


 いいですねいいですね! ブラン様が喜びそうな写真をいっぱい撮れそうです! そう、朝倉先輩が唐沢さんのパンツに顔を突っ込んで――。


「へえ、あなたが沙耶先輩のことを盗撮していたんですね」


 振り返ると、そこには何故か折笠さんがいたのです。ど、どうして折笠さんがこんなところに! さっき、彼女は朝倉先輩と一緒にいて、お手洗いに行くと校舎の方へと姿を消したはずなのに。


「これを使って撮影したのですね。失礼ですが、ちょっと拝見しますよ」


 そう言われ、風紀委員長である藤堂千晴先輩にスマートフォンを取られてしまいます。


「返してください! スマートフォンを覗くことは、プライベートを覗くことと一緒なんですよ!」

「パンツを堪能する朝倉を盗撮することに比べれば、藤堂がお前のスマートフォンをチェックするのは可愛いもんじゃないか? 掛布」

「し、東雲先生……」


 どうして、現代文の東雲先生が風紀委員の生徒と一緒にいるのですか? 風紀委員の担当教師だなんて聞いてないですよ。


「それに、何もやってないんだったらこのまま藤堂に見せてあげな。朝倉の盗撮写真さえなければ何も言わないから」

「ううっ……」


 東雲先生にそう言われ、肩に手を乗せられると……何も言い返すことができません。


「見つけました。昨日、盗撮された朝倉さんの写真。撮影時刻も昨日の夕方。彼女がこのスマートフォンで撮影したと考えて問題ないでしょうね」

「そんな……」

「沙耶先輩! 理沙ちゃん! 犯人を捕まえました! もう大丈夫ですよ!」


 折笠さんがそう言うと、朝倉先輩と唐沢さんは笑顔でこっちに手を振ってきました。風紀委員のワッペンを付けた成田先輩と、風紀委員会担当の秋川先生の姿が現して2人の側に。


「どうして、こんなことに……」


 私が朝倉先輩を盗撮したことがバレるわけないと思っていたのに。


「あなたが沙耶先輩のことをコソコソと盗撮していましたので、そんなあなたのことをコソコソと後を付けていたんです」

「そんな、いつの間に私が盗撮した犯人だって……」

「つい先ほどまで、全く分かりませんでした。しかし、パンツを堪能する沙耶先輩を盗撮していましたので、人気の少ない場所で誰かのパンツを堪能する状況になれば、どこからかレンズを向ける人が必ず現れると考えました。しかも、あそこの場所ならコソコソ撮影できるのは、ここら辺にある木や草の陰しかありません」

「じゃあ、唐沢さんが朝倉先輩のところにパンツを見せに行ったのも……」

「もちろん、盗撮した人物をおびき寄せるためです。パンツを堪能する相手は風紀委員のメンバーだと感付かれてしまうかもしれないので、一般生徒の理沙ちゃんに協力してもらいました」

「う、ううっ……」


 ということは、きっと……見回りを始めたときから演技は始まっていたんですね。あの写真を撮影した人物をあぶり出すために。そういった風紀委員会の策略通りになってしまうなんて。ブラン様に何て言えば。


「琴実ちゃん、その子が私を盗撮した子?」

「はい、そうです」


 うわあ、朝倉先輩がこんな近くに! やっぱり綺麗でかっこいい人です。


「へえ、可愛い子が撮っていたんだね」


 か、可愛いって言われてしまいました! 興奮しすぎて鼻血が出てしまいそうです。


「例の写真、彼女のスマートフォンの中に保存されていました。撮影時刻からして彼女がこのスマートフォンで撮影して間違いないでしょう」

「そうか。ありがとう、藤堂さん」


 朝倉先輩のことは私のことを見てきます。表面上では特に怒っているようには見えませんが、絶対に怒っていますよね。私に盗撮されてしまったのですから。自然な笑みが逆に恐いです。先ほどの興奮は一瞬にして冷めました。


「掛布、逃げようとか考えるなよ。逃げても恥をかくだけで何にも役に立たない。逃げない方が今後のお前の高校生活のためになると思うぞ?」


 東雲先生、目つきがとてもキツくて恐いです。


「真衣子さん、そういう言い方はいけませんよ。掛布さんって言ったかな。まずは風紀委員会の部屋に行って色々とお話を聞かせてくれる?」

「……はい」


 秋川先生にそう言われて、私は風紀委員会の活動室へと連行されることに。もう、お先真っ暗です。これからどうすればいいのかもう何も分からない。

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