セムの7日目

さいとし

セムの7日目


 セムに与えられた仕事は、大聖堂のステンドグラスを磨きあげることだった。ガラス職人たちが4代かけて作り上げた芸術品。それをセムに任せることについては、少なくない人々から反対意見も出た。しかし、実際にセムが働き始めると、誰もが彼のことを気に入った。彼は愛される働き者だった。


 彼を設計した技術者とデザイナーも、その結果に喜んだ。


 セムは、たくさんの足で窓から窓へと飛び移り、色とりどりのガラスを拭き上げていった。彼の丸い頭には、開発者が遊びでつけたライトがあって、ガラスを磨く時に、そのガラスと同じ色でチカチカと光った。かれはきっかり6日間で全てのガラスを磨き、週のもう1日でメンテを受けるのが常だった。司祭は、セムに安息日を告げるコマンド入力を、毎週の楽しみにしていた。


 ある年、色々な事情から城の近くに爆弾が落ちた。ステンドグラスは粉々に砕け、大聖堂も半分が崩れ落ちた。誰もがそれを残念がった。難を逃れた司祭は、行方の知れなくなったセムを案じながらも、近くの広場でミサを再開した。


 国境がようやく安定したある日、学者が城の跡地を訪れた。彼は国と教会、それに幾つかの企業から依頼を受けていた。調査ののち、学者は瓦礫の中からセムを掘り出し、司祭の許可を得て持ち帰った。


 それから数ヶ月。アクセスの殺到するオンラインボード上で、セムは窓拭きを始めた。彼がダイオードをチカチカさせて足を動かすと、そこにガラスのレイヤーが現れる。エメラルドのように輝く樹木が、深い海を泳ぐ鯨が、祝福を受ける信者たちが、セムの動きに合わせて蘇った。世界中が見守る中、セムはいつも通り仕事を続けた。


 セムはきっちり6日間で全てのガラスを再現した。そして、7日目はゆっくり休んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

セムの7日目 さいとし @Cythocy

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ