第28話「思い出した」

 う……あ、あれ?


 そこは薄暗くて何もない場所だった。

「ここはいったい?」

「魂が迷いこむ場所ですよ」

 え?


 声がした方をみると、そこにいたのは水色の長い髪に銀の髪飾りをつけ、髪と同じ色の目に白く透き通るような肌、白いローブとマントを纏った女性だった。


 あれ、僕この人をどっかで見たことがあるような?

「わたしの名はユイです。隆生さん、子孫達がお世話になってます」

 え、隆生って? 子孫って?


「どうやらご自分の名前まで忘れてるようですね。でもすぐ思い出しますよ。わたし達のように」

「え……あ?」

 そう言われた時、僕の頭の中に自分の事、皆の事が次々と頭に浮かんできた。



 そうだ、僕の名前は仁志隆生だ。


 ミカ、ユカ、ミルちゃん。


 シューヤにチャスタ、セリスにルーにイリア、カルマ。

 

 イザヨイ、ミユキ、セイショウさん、ランさん、キリカさん、アマテラス様。


 父さん母さん、じいちゃんにばあちゃん。


 僕の前世ヒトシ。


 そして……優美子姉ちゃん。



 

「……思い出した。そうだった。僕は全てを忘れていた。けど何故元に?」

 すると僕の疑問にユイさんが答えてくれた。

「それはカルマさんがセイントコアを使って願いを叶えてくれたからですよ」

「え!? セイントコアって、そんなの使ったら魂が!」

「カルマさんは消えてませんよ。ミルのおかげでね」

「え、ミルちゃんのって精霊女王の力? いやそれとも破邪の力?」

「いいえ、それらを上回る力、愛する者を想う心の力です」

 ユイさんが微笑みながら言った。


「ありゃ~、ミルちゃん、カルマをそこまで想っちゃったんだ」

「はい。でも魂の消滅は防げましたが、代わりに寿命が削られたのでカルマさんはもう長くありません。……わたしが見たところでは持って数日」

「え、そんな」

「こればかりはどうしようもありません。魂が消えない代償としては軽いかもしれませんが、残された者の事を思うと」

 ユイさんは俯きがちに言った。

「そうですよね……でも魂が消えないならいつか生まれ変わって」

「ええ。きっと会えますよ」


 そして辺りを見ると、たくさんの光の粒が上に上にと登って行くのが見えた。

 あれって?

「ここは隆生さんやわたしのようになった者が集まる場所なんですよ。あれは他の皆が天に昇っていくところです」

「わたしのように? もしかしてユイさんもそうだった?」

「はい。あの旅の途中でね。わたしは心ならずも皆を悲しませました……キリカなんかわんわん泣いてたわ。聖巫女といっても何もできない、って」

「そうでしたか。あ、ここにいるって事は僕は死」

「いえ、隆生さんはまだ天寿を全うしていないから、現世に戻れますよ」

「え、本当ですか!? よかった」

 記憶が戻ったって死んじゃったら……。

「ふふ。隆生さん、ミカ達をよろしくお願いしますね」

 ユイさんはそう言って頭を下げてきた。


「ええ。しかしあれって結局何だったのですか?」

「それはわたしにもわかりません。ただあれは魂の記憶全てがなくなるというものだったようです。だから皆死後天への道がわからず、彷徨った末にここに集まったようです。でももう思い出せました。これもカルマさんや皆さんのおかげですよ」

 ユイさんはまた微笑みながら言った。

「そうでしたか、よかった……あ、じゃあユイさんもあの世に?」

「はい、長い間子孫をちゃんと見守れてませんでしたし。それにタケルやキリカ達とも思う存分話したいわ」

「あ、そうか。ユイさんも初代神剣士一行だったんですよね」

「ええ、わたしもタケルが好きでね、記憶がなくなりつつある時に一度だけ……その後生まれた娘がシルフィード二代目女王になったんです」

「マジですか!? じゃあミカちゃん達ってタケルさんの子孫でもある!?」

「そうですよ。今頃現世でもその事を……あ、そうだわ。せっかくだからちょっと失礼して」

 ユイさんはそう言って僕の腕を掴むと何やら呪文を唱え始めた。


 そこで僕の意識は途切れた。

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