第26話「気にするな」

 そこにいたのは隆生と同じ年頃の青年だった。

 そして彼は、あいつに似ていた。


「え、タケル?」

「いえお姉様、この人は別人よ。でもほんと似てる」

 ミカちゃんとユカちゃんが驚いて彼を見ていた。

 

 あ、もしかして彼は?

「あ、あなた。来てたの?」

「やっと厄介事が片付いたんでさっき来たんだよ。それと話は聞いてた」

 やっぱりか。

 彼は初代神剣士で今は武神。

 そしてキリカちゃんの夫のタケルだった。


「え、もしかして始祖様!?」

「何だって!? この人がご先祖の始祖タケル様!?」

 シューヤと姉ちゃんが彼を見て叫んだ。


「ああ、子孫達は俺を始祖様と呼んでたんだな。っと、さっきの続きだが」

「あのタケル様、ユイ様のお相手はあなただったんですか?」

 ユカちゃんが尋ねた。


「そうだよ。あいつな、何故か皆の事は忘れても、俺の事だけは忘れなかったんだよ。当時は全然わからなかったけど、あいつはずっと俺の事を……情けない事にキリカに言われてわかったんだよ」

「そうよ。そしてこのダンナはそれを聞いた途端に、ユイの元へすっ飛んでったわ」

「ああ、そして……すまんキリカ。あの時だけはユイに心が傾いた」

「そんな事はいいわよ。わかってるから」

 キリカちゃん、そう言いながらムスッとしないの。

 後で僕が槍でそいつ刺してあげるからさ。


「わたしもタケルを、でも」


「ええユカ、あれはまるでユイみたいだったわね」

「ああ、ユイもあんな感じだったよな。はあ、気づいてやれなくてほんと悪かったよ」

 タケルが鈍いのはこいつに似たからか?


「あの、ユイ様は天界にいないのですか? 聞いてるとずっとお会いしてないような口調ですが?」

 ミカちゃんが尋ねると、


「……ユイの魂は死後あの世にも天界にも来ていないんだ。いや、どこに行ったのかわからないんだよ」

 タケルが暗い表情になって答えた。


「え?」

「調べてみると、ユイと同じ症状になった者は皆そうなんだよ。どうなったかはアマテラス様や眷属様でもわからないんだよ」

「そ、そんな。じゃあ隆生さんも?」

「ああ、もしかしたらそうなるかも」

 

「それは僕も知らなかった。ならなおさら」

「ヒトシ様。あなたがあれを使うのは大博打ですよ。外したら二人共消えるんですから」

 タケルが僕に話しかけてきた。


「そうなんだよね~。くそ、僕だけが消えればいいのに」

「あの、ヒトシさん。もしかしてセイントコアを使うつもりですか?」

 ミカちゃんが話しかけてきた。

「そのつもりだけど隆生まで消えちゃったら意味が無いし、かと言って他の誰かにやらせる訳にもいかないし」


「ねえ、セイントコアって八つあってどんな願いでも叶えてくれる宝石だよね?」

 イザヨイが挙手して尋ねてきた。

「そうだよ。でもそれを使った者は魂が消えちゃうんだよ」

「知ってる。けどさ、ヒトシさんやタケルは消えなかったんだよね?」

「僕の場合はよくわからないんだよ。タケルの時は僕が身代わりになって消えるはずだったけどさ、ランとセイショウのおかげで助かったんだよ。でも次はおそらく駄目だろうね」


「そうなんだ。僕も神剣士だし、もしかするといけるかもと思ったけど」

「やめておけ、お前がもし犠牲になったら隆生が苦しむだろう」

 カルマがイザヨイの肩をぽんと叩いて言った。

「ところでそのセイントコアは今どこにあるのだ?」

 カルマが尋ねてきたが、そういえばどこだ?

「ここにありますよ。どこかに置いておくのは不安だから、私が持ち歩いてるんですよ」

 セイショウがそう言って腰に下げていた魔法の袋から八つの宝石を取り出し、テーブルの上に置いた。

 皆が席を立ってそれを見つめていると

「これが……ははは、これがそうか。はあっ!」

 カルマはいきなりそれを念動力で自分の元に引き寄せ

「キャっ!?」

 隣にいたミルちゃんを脇に抱え、全然決まってないポーズを取り

「ははははは。みな我が妖魔獣だという事を忘れていたようだにゃ。ではこの宝石を、そしてミルをつこて世界を我が手に……さらばだにゃ!」

 そう言ってどこかへ飛び去った。



「……はっ!? ちくしょー! いきなり大根な演技を見せられて固まっちゃったぞ!」

 我に返ったチャスタが叫び、

「お、おれは笑いを堪えるのに必死で……『にゃ』ってなんだ、くく……」

 シューヤは突っ伏して体を震わせ、

「カ、カルマさん、もしかしなくても自分がセイントコアを使って、隆生さんを」

 ルーが青ざめた顔になって言った。


「う、う……と、とにかく追うぞ!」

 脱力していたタケルが叫ぶと全員が外へ出ていった。

 あ、そうだ。

「姉ちゃんは隆生の側にいてあげて」

 誰もいないと不安だし、それに今の姉ちゃんじゃ悪いけど足手纏いだ。

「え、ああわかった……すまん」

 僕の心の内を察してくれたのか、姉ちゃんは一言謝って頷いた後、寝室へと走っていった。




「ふふ、我の演技が下手なのはわかってるわ。だが足止めにはなっただろう」

「お兄ちゃん、消えちゃう気なの?」

 カルマに抱きかかえられたミルが尋ねた。

「いや、我とてそう簡単に消えたくはない。だからミルに来てもらったのだ」

「何で? あ、あたしの力が何かの役に立つの?」

「そうだ。上手く行けば消えずにすむが、ダメだった時の事も考えると他の者には任せられん。だから我が」

「お兄ちゃん、あたしも頑張るから」

「ありがとうミル。だが失敗しても気にするなよ」

「……うん」

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