第20話「別世界の神剣士」

 僕達がやって来た場所はかつて存在した国、エテールの北部だった。

 そこには天まで届くかのような高い塔があった。


「二人が戻ってくるのはここのはずだからね」

 キリカさんがそう言ったが、何で?

「イザヨイとミユキはここで生まれたからよ」

「へえ。あ、もしかしてイザヨイかミユキが、もしくは二人共王家の末裔だとか?」

「いいえ。エテール王家の血筋は遥か昔に途絶えてるわ」

「違ったか。あ、彼は神剣士だから」

「正解。彼は私の末っ子の子孫よ。今から二千五百年程前、シュミセン世界が二つに分かれた時にシルフィードにいたイザヨイの先祖も巻き込まれ、一緒にこの世界に来たのよ」

「そうでしたか。でもその人って……あ、そうか。時空転移って誰でもできるわけじゃないか」

「ええ。彼はこれも運命と思ってここに骨を埋め、この世界の神剣士一族の祖になったのよ」


「ところでキリカ様、イザヨイさんってどんな方なんですか?」

 そう尋ねたのはシューヤだった。

「それはね、会ってからのお楽しみよ」

 キリカさんは何かニヤけながらそう言った。

「そうですか。神剣士ですからさぞ強い方なんでしょうね」

「わたしはあまり詳しくは聞いてないけど、先生は『イザヨイは自分より強い』って言ってたわ」

 ユカがそんな事を言った。


「へえ。あれ? それならジニュアさんをわざわざこの世界に呼ばなくてもよかったんじゃ?」

「あ、たしかにそうだ。イザヨイさんが勇者でもよかったんじゃ?」

 ユカの師匠、ジニュアは世界の危機を救ってほしいとこの世界随一の大魔導師に召喚されたんだよな。

 まあ、何でイザヨイが勇者でないかは僕が思ってるとおりだと


「あ、帰ってきたみたいね」

 キリカさんが塔の方を指さした。

 そして向こうから一組の男女が歩いてきた。


「……えと、あの二人がそうなんですか?」

 シューヤがキリカさんに戸惑いながら尋ねた。

「そうよ。驚いたでしょ?」

「ええ、まさか」

「わたしも驚いた」

 シューヤとユカは二人を見て目を丸くしていた。

「へ?」

「え?」

 ミカとチャスタも驚いて言葉が出てこないようだ。


「隆生、あの二人ってお前が思ってたとおりなのか?」

「うん姉ちゃん。聖巫女ミユキの現在はあまりイメージしてなかったけど、神剣士イザヨイは僕が思ってたとおりだよ」

「そうか。いや、まさか」


 男性の方はややボサッとした黒髪で穏やかな目つき。

 若草色のマントに服は茶色のジャケット、紺色のズボン。

 女性の方は神社で見かける巫女さんの服装、黒いショートボブで可愛らしい顔立ち。

 そして


「私も知りませんでしたが、神剣士イザヨイと聖巫女ミユキってこんなに若い方だったんですね。もっと上かと思ってました」

 セイショウさんも驚きながら言った。

「ええセイ兄ちゃん。二人共十七歳よ」

 そう、二人はおそらく皆が思ってたよりも若かった。


「あ、キリカ様。お久しぶり~」

「キリカ様。ただいま戻ってきました~」

 イザヨイとミユキがキリカさんに挨拶した。

「おかえりなさい。あ、もう事情は知ってるわね?」

「はい。ユカちゃんにこの宝玉を渡せばいいんだよね?」

 イザヨイはそう言って、腰に下げていた袋から青い宝玉を取り出した。

「そうよ。あ、そういえば皆試練がって言ってたけど、誰がそんな指示出したのかしらね?」

 あ、そういやそうだ。

「それはこの宝玉自身の意志ですよ。神様方もいるとはいえ、やはり自分で確かめたかったんでしょうね」

 ミユキがそう言った。

 聖巫女ってそんな事もわかるのか。


「あの、たしか先生がこの世界に来たのって」

「うん。僕達がジニュア兄ちゃんと一緒にいたのは十年前だよ。と、初めましてユカちゃん。僕がイザヨイだよ」

「ユカちゃん初めまして、ミユキです~。それと」

 ミユキはミルちゃんの方を見た。

「ライアス兄さんとメル姉さんの娘さん、ミルちゃんね。ほんとお母さんそっくりだわ~」

「あの、お兄ちゃんとお姉ちゃんはパパとママの友達なんだよね?」 

 ミルちゃんが尋ねると

「そうよ。皆仲間であり兄や姉のような人達だったわ」

「そうだなあ。そういやたまにジニュア兄ちゃんがミユキを変な目で見てたなあ。後になってわかった時は究極奥義ぶつけに行こうかと思ったよ」

 それはまあわからんでもないが。


「なるほどな、十年前なら彼等は七歳だものな」

 姉ちゃんがイザヨイ達を見て呟いた。

「そうよ。イザヨイは神剣士だけど当時はまだ幼い子供で、実力はあったけどそれでも魔王や幹部クラスには到底かなわなかった。だから大魔導師がそれらに対抗できてイザヨイをさらに鍛える事ができる人、勇者ジニュアを呼んだのよ」

 キリカさんが答えた。

「へえ、じゃあイザヨイってジニュアさんの弟子でもあるんだ」

 すると聞こえたのかイザヨイ達がこっちにやって来た。


「うん。兄ちゃんは師匠でもあるよ。僕が一番弟子だって兄ちゃんが言ってた」

「そうだったんですね。わたしも先生の弟子で、今のところ最後から五番目です」

 ユカが自分を指さして言った。


「うん。ミユキの力で全部知ってる。あ、あなたが隆生さんだよね。今の第五公家当主様でもある」

 イザヨイは僕にそう言った。


「まあ名前だけだけどね。そういえば君は」

「うん、一応第五公家の血筋だよ。でももう関係ないくらい薄いし、今更貴族になりたくもないから気にしないで」

「わかったよ。ところで君達も何か試練出すの?」

「はい。では試練だけどね。隆生さん、僕と戦闘で勝負して」

 イザヨイはにこやかにそう言った。


「待てやコラ。僕が君に勝てるわけねえだろ」

 僕が思ってるとおりならイザヨイは今現在この世界で最強、そして全次元世界でもトップクラスだぞ。

「そんなのわからないよ。それに勝敗は別にして僕が強い、と思えたら合格にするよ」

 うーん。それでもどうだろ?

「あのさあ、オイラじゃダメ?」

「あ、おれも手合わせ願いたいです」

「我も興味があるな」

 チャスタ、シューヤ、カルマが前に出たが

「えっと、他の皆とは後で試練抜きでね」

「待て、僕が戦うって決定事項なのか?」

「うん。だって神様達を除けば、隆生さんがこの中で一番強いし」

「は? 一番はセリスだろ。それにヒトシやカルマも僕より強いよ」

「あれ、ミユキがそう言ってたんだけど? どうなの?」

 イザヨイがミユキに尋ねた。


「えーとね。たしかにセリス君が一番強大な力を持ってるわ。でもセリス君は本来戦闘向きな性格じゃないでしょ。だから除外したの」

 あ、そうだよな。

 でもセリスが凶暴化したら木刀だけで大魔王すら倒しそうだが。


「それにカルマさんも強いですが、今の隆生さんの方がもっと強いです。あとヒトシさんは隆生さんと同じ存在ですからノーカウントです」

「そうなのか。でも僕がカルマより強いはずないけどなあ」

「何を言うか。隆生は我を以前あっさりとズタボロにしてくれたではないか」

 カルマがそう言ったが

「いや、あれは不意打ちみたいなもんだろ」

「我は不意打ちでズタボロにされるほど弱くないつもりだ。自信を持て、隆生」

「あ、うんわかったよ」


「それじゃあ決まりだね。えっと、僕も帰ってきたばかりで疲れてるから、明日でいいかな?」

 僕はそれでいいと首を縦に振った。


「よし、じゃあ今日は僕達の家に泊まってよ。たいしたおもてなしはできないけど」

「いや、それは気にしない……あれ? ねえってもしかして、二人は一緒に住んでる?」

「それが何か?」

「いや、君達って恋人同士? それとも結婚してるの?」

「あ、まだだよ。僕達の結婚はジニュア兄ちゃんの後にと決めてたの」

「そうだったのか。じゃあもう遠慮はいらないよね」

「うん。今度あっちにお祝いに行った後、僕達も」

 

 そうか。ちょっと羨ましいなあ。

 僕なんかできるかどうかわからないしね。

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