第9話「炎の石」

 そして僕達は塔の内部に入り、その中央にある火炉の前に来た。

 5mくらいの正方形で火をくべる場所に台座がある。

 しかし全体的にヒビだらけ。どうしてこうなったんだ?

「ここは俺が戻ってくる以前に妖魔に襲撃されたそうなんです。理由はおそらくこの国の弱体化だと……ですがさすがの妖魔もこれを完全には壊せなかったようですが、火を灯せなくなったのでそれでよし、とでも思ったんでしょうね」

「そうだったんですか。あの、その妖魔はどうしたんですか?」

「妖魔は王家のたった一人の生き残りであった王太子アゼル様が倒したそうですが、アゼル様もその時に……まだ十五歳とお若かったそうで、うう」

 オニワカさんは目を手で覆って泣いていた。


「じゃあ王家はそれで」

「ええ。それとアゼル様は今際の際に『できればシルフィードのユカ王女が世界を統べてくれたらいいのにな、彼女は絶対生きているから』と仰られたそうです」

「え? 王子はユカちゃんの事知ってたのですか?」

「はい。俺が聞いた話では、アゼル様はお小さい頃にユカ様とお会いになった事があるとか」

「……あ、たしかに小さい頃、サラマンドルの王子に遊んでもらったような……後で聞いたけどお父様の評判が良くない時でも、サラマンドル王家だけは態度を変えなかった、と」

 ユカが記憶を辿るように言った。

「ええ。あとこれは俺の口からは……どうしよ?」

「それなら私が言うわ。あのねユカ、アゼルはあなたの婚約者候補だったのよ」

 キリカさんがユカにそう言った。

「え!? そ、そんな事知りませんでした!」

 ユカは驚きながら呟いた。

「ええ。あくまでだからよ。あなた達が成人してから正式にどうするか決めるつもりだったみたいよ。でも」

「キリカ様、察するにアゼル王子はユカの事が」

 シューヤが険しい顔をして尋ねると

「そうよ。彼は幼い頃からずっとユカが好きだったのよ。国が復興したらユカを探しに行くつもりだったようね……でも」

「……そんな、わたしには優しいお兄さんという記憶しか。でも王子は、アゼル様はずっとわたしの事を」

 ユカは涙声になっていた。


 僕達もどう言っていいかわからなかった。


「この話を聞いた時、俺がもう少し早く国に帰っていたらアゼル様の身代わりになれたのに、と思いましたよ。でもそんな事言っても始まらない。今生きてる俺達が国を復興させなければアゼル様は報われない、と。そう思って今こうしていますよ」

 オニワカさんが涙目でそんな事を言った。


 身代わりに……僕が思ってるイメージではオニワカさんは武蔵坊弁慶だ。

ただ弁慶と違って自分が盾になる前に主君が……無念さは分かる気がするよ。


「……さ、それは後にしてチャスタ、ルー。お願いね」

「うん!」

「はい!」 

 キリカさんに呼ばれたチャスタとルーは火炉の前に歩いて行った。


「えっと、ふむふむ……よし、やるぞ~」

 チャスタは魔法の袋から左官用コテを取り出し、何かの呪文を唱えながら火炉のヒビ割れ部分にコテを当てると、そのヒビが綺麗さっぱり無くなった。

「って、うえ!? あ、あれ何!?」

「あれは魔法力と秘術で作ったパテのようなものを塗ってるのよ。さすがあの魔法技術に優れた鬼族の末裔チャスタね」

 キリカさんが説明してくれた。

「あたしならもっと簡単に出来るのに~」

「ママ、手助けはいいけど全部自分でやる気なら手を出さないでね」

「う~! ちょこっと手助けなんてあたしの性に合わないわよ~!」

 ランさんが子供みたいに喚いてた。この人過保護は直ってないんだな。


 その後チャスタは無数のヒビ割れを全て埋めていった。

「よし、終わったよ。後はルーが」

「うん、炎の元を創ればいいんだよね。でもどんなのかなあ?」

 あ、そうか。

 ルーは自分が想像できないものは出せないんだ。

 イメージを言ってあげないと。でも僕だってそんなもん思いつかんし、どうしよ?

「お~ほほほほ! やっとあたしの出番ね~、さてパパっと出して」


 ゴン!

 ズルズル……。


「たく~、少年の見せ場取っちゃダメだよ~」

 ヒトシが百トンハンマーでランさんを気絶させ、服の襟を掴んで何処かへ引きずってった。


「……難儀な母ですみません。まあ、ルー君の頭に浮かぶ方法はあるにはあるんですけど」

「え? どうやるんですか?」

「えーと、うーん」

 おい、セイショウさんが言い淀むってそんなにヤバい事なのか?


「セイ兄ちゃん、言ったら何かまずいの? 別に命に関わる訳じゃないのに」

 キリカさんがセイショウさんに尋ねた。

「あのな、いくらなんでもこれは言えんわ。少年少女の心が傷つくかもしれんのだぞ」

「気にしすぎじゃない? 皆割り切れる……ごめんなさい、無理よね。ちょっと感覚マヒしてたわ」

 キリカさんは何かに気づいて即座に謝った……ん?


「もしかしてそれ、ミカちゃんの力?」

 僕が二人に尋ねると

「……はい、そうです」

「ええ。でも今のルーにだと、直接力を送り込まないとね」

 うん、そりゃダメだわ。

 割り切れる訳ねえだろ。

 すると


「おい、ようはルーの潜在能力を解放できるようにすればいいのだろ?」

 そう言ったのはカルマだった。

「カルマさん、何かいい方法あるの?」

「ああ。我は潜在能力の解放は出来ぬが、道を示す事なら出来る。後はそこへミカの力を放てばいいだろう」

「なるほど、それならちゅーせんでもいいね」

「ああ。あれをやられたら我はまた鼻血を出して倒れてしまう。いや、見なければいいのだろうが何故か気になって見てしまうのだ、うう」

 カルマは顔を真っ赤にしていた。

 っておのれは思春期の少年か!


「ま、まあそれなら……じゃあお願いね」

 キリカさんがちょっと引きながら言った。

「ああ、では……はあっ!」

 カルマが気合を入れて手をかざすと、ルーの胸辺りに拳大の黒い穴のようなものが。


「あれが?」

「ああそうだ。さあミカ、頼む」

「はい……はっ!」

 ミカの手から光が放たれ、それが黒い穴に吸い込まれていくと、


「あ、頭に浮かんで来た、炎の元が……よし、え~い!」

 ルーが光り輝きながら手をかざすと、火炉の台座の上に炎の形をした大きな石が現れた。

 あれがそうなんだな。何か部屋の中が暑くなってきたし。


「これは炎石って言ってね、大気中に生命エネルギーがある限り、永久に消えない炎を出してくれるものなんだよ」


「へえ、それうちの世界にもあればエネルギー問題は一気に解決するよ。ねえルー君、後でもう一個作って」

「隆生、あれはあの世界だと制御できないよ。もし持って帰ったら暴走して世界が吹っ飛ぶよ」

 ヒトシがそう言った。

 ……残念、そう都合よくはいかないもんだな。


「皆お疲れ様。さ、外に出ましょう。この調子ならすぐ頂上の炎が灯るわ」  

 キリカさんに促されて僕達は外に出た。

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