第8話「フェルドの塔」
キリカさんに案内されて着いた場所は首都の中央部にある広場だった。
そこではなんだか聖火台を思わせるような形をした大きな塔の修復作業が行われていた。
「あの、ここに宝玉を持った人がいるんですか?」
「そうよ。えっと……あ、いたわ」
キリカさんが指差した方を見ると、四十代くらいの丸刈りで作業着を着た男性が同じ作業着を着た数人の人と何やら話していた。
どうやらあの人が現場監督のようだが?
「彼がそうよ。あ、彼には既に私達が来る事は伝えてあるからね」
「キリカ様。あの人って以前と雰囲気違いますけど……てか何でここにいるんですか?」
ん? あの人ってミカの知り合い?
「ええ。ちょっと手助けしてもらおうと思って呼んだの。彼はこの国に縁のある人だし、丁度手が空いたようだったので」
「縁のある? もしかしてあの人が仕えていた国って、サラマンドル小国家群の一つだったんですか?」
「そうよ。チャスタのお養父さんとはまた別のね。あそこはサラマンドル一の軍事力を持っていたの。そのせいで魔王軍に目を着けられ真っ先に滅ぼされたのよ。彼は王を守りきれず自暴自棄になってた所をシヴァさんに誘われ、そして」
「はい、誰だかわかりました。あの人ってオニワカさんですね?」
僕がそう言うと
「そうよ隆生。彼の姿は僧兵風のイメージしかないから、わからなかったでしょ?」
「ええ。普段はあんな感じだったんだ」
オニワカとは元魔王軍第十二軍団将軍で、今はウイリアム王国の王都守備隊長である。
彼はさっきキリカさんが言ったとおりあっちの世界の魔王であったシヴァに誘われ、一度ウイリアム王国軍と戦い命を落としたがヒトシが蘇らせて洗脳してしまい、今度はウイリアム王と一騎打ちの末に自我を取り戻し、その時に王が彼をスカウトしたんだ。
彼は国に攻め込んだ自分を受け入れてくれた王や国民に感謝し、生涯王国を守ろうと頑張っていたんだよな。
「でも、今はどうしてここに?」
「それはですね、王から『前主君の墓参りでもして来たらどうだ?』と言われ、休暇を頂いてたんです。そして国に戻ったらキリカ様に声をかけられて」
気が付くとオニワカさんがすぐ近くにいた。
「あ、そうだったのですか。てか休暇なんだから断って休めばいいのに」
「いえいえ、俺も生まれ故郷の復興の為ならと思って。ところで皆さん、事情はキリカ様から聞いてますよ。この宝玉が必要なんですよね」
そう言ってオニワカさんは懐から赤い宝玉を取り出した。
「ええ、それよ」
「これが……あの、オニワカさんはどこでこれを?」
「あれは前主君の墓参りをした時でした。墓の前でふと足元を見るとこれが落ちてたんです。そしてこれを拾った時、前主君の魂が俺に語りかけてくれました。『いずれその宝玉を必要とする方が現れる。その時は』」
「もしかして何か試練を出して、それをクリアしてから、とか?」
「ええ。なのでその通りにさせて貰いますわ。では試練ですが実はこの塔、『フェルドの塔』と言うんですがね、これは本来てっぺんで炎が燃え盛ってるものなんです」
オニワカさんはそう言って塔を指差した。
「へえ、でもそれ普通の炎じゃないんですよね?」
「ええ。その炎とは生命エネルギーと特殊な魔法技術で創られた火炉から出ていたんです。そしてこの国の生活に必要なエネルギーの源でもあったんですよ。でも破損してしまって」
「なるほど。じゃあその炎を再び灯すのが試練、ですね?」
「はい。てかこれ、皆さんならできると思って言ってるんですわ」
オニワカさんはにこやかにそう言った。
「そうですか。でもどうやればそんな事、あ」
「ん、どうした隆生? 何か思い当たる……あ、そういう事か」
姉ちゃんも思い当たったようだね。
「あの、わたしもわかりました。チャスタとルー君ならその火炉を創り出せますよね?」
ミカがそう言って来た。
うん、チャスタのあらゆる物を創り出せる力、ルーの生命創造の力を合わせれば火炉を再び創れるよな。
「う~、あたしは手を出しちゃダメなの?」
創造を司る精霊(てかそれもはや神だろ?)ランさんが何か拗ねてるが、
「まあ少しは手助けしてあげてよ、お母さん」
キリカさんがランさんにそう言ったら
「キリカ~、あたしの事はママって呼んでよね~」
何か猫なで声でキリカさんに擦り寄った。
「ええ、そっちの方がいいならそうするわ。ママ」
お、キリカさんはセイショウさんと違って躊躇しねえんだな。
「ありがと~! あたしこんな可愛い娘ができて幸せだわ~!」
そう言ってランさんはキリカさんを抱きしめた。
おまけに頬ずりしとるがな。
「ねえキリカちゃん、僕の事はパパって呼んでよね~」
ヒトシがそう言うと
「それだとえんこーみたいだからやだ~。てかお父さんはもっとダンデイなのがいいわ~、こんなチビじゃやだ~」
キリカさんは何故かJKみたいな口調で言った。
「いいもんいいもん、どうせ父親は娘に嫌がられるもんなんだよ」
ヒトシは珍しくいじけてしゃがみ込んだ。
「どうして話が脱線するんだ?」
「ごめんなさい、この人達ってスムーズに話進められないみたいなの」
オニワカさんとルーが何か話していた。
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