第20話「想いを託す」

 そこを見るとやはり国際展示場はなかった。

 だが

「おお皆、無事だったか!」

 じいちゃんがそこにいた人達、やはり魔族っぽい人や獣人族に話しかけた。


「ええ、勝隆さん。皆元気にしてましたよ」

 魔族の人が答えた。


「そうか。それはよかった」

「皆お疲れ様。ところで……あれ何?」

 サオリさんがその人に尋ねた。

 どうやらサオリさんも知らないらしい。


「わかりません。今朝になって急にあれが現れたんです」


 そこにいたのは、何か粗大ゴミが合わさってできた全長二十メートルはありそうなロボット(?)だった。

 

「……あれって動かないのですか?」

 僕がロボットを指さして聞くと

「いえ、あそこから動きませんし攻撃もしてきませんが、あれの後ろ側に行こうとすると通せんぼされるんです」

「後ろ側? あ!?」

 ロボットの足の間から向こう側を見ると、そこには鈍く光る本が浮いていた。

「あ、あれがサオリさんが言ってた本ですか?」


「そのようですね、前ははっきり見えませんでしたが同じ力を感じます」

「あれが……ではあのロボットは番人?」

「そうみたいだな。どうする?」

 姉ちゃんが聞いてきたが、どうしよ?


「あの、とりあえず話しかけてみませんか?」

 ミカがそう言うが、魔族の人が言うには、

「既に俺達も話しかけてみましたが、反応がありませんでした。言葉が通じないのかもしれません」

「そうですか。でも一度やってみませんか?」


「そうだね。攻撃してこないようだしそうしてみよ」

 そしてロボットに近寄り


「あの~、僕達が言ってる事わかりますか~?」

 僕はロボットに向かって叫んだが、やはり反応はなかった。


「おーい、お前なんでここにいるんだ~?」

「どっから来たんだ~?」

 皆も叫んだが反応がない。


「どうしよ……あ、そうだじいちゃん、あいつの心って読めない?」

「ちょっと待て。うーむ、誰も本に近づけないように、と思ってる……待て、これは?」

「じいちゃん?」

「いや、後ははっきりと見えん」

「そうなんだ。でも心があるなら何かで反応するかも」


「……そうだ、隆生さんとシューヤがカラんでるとこ見せたら、はあはあ」

 ゴン!


「そりゃユカちゃんが見たいだけだろが!」

「ユカが望むなら……辛いけど」

 シューヤが服を脱ぎだしって、やめんかー!


「なら優美子お姉様と私のカラミを見せましょう、はあはあ」

「俺は人前でそんな事したくないが……まあいいだろうグヘヘヘ」

 ゴン! ゴン!


「おのれ、神をポコポコ殴るなんて」

「隆生……貴様」


「なあ皆、いつの間にかミルちゃんがロボットに話しかけてるぞ」

 チャスタがロボットの方を指さしてそう言った。

「あ!?」


「ねえロボットさん。あたしとお話しない?」


 するとロボットがその場にしゃがみこんだ。

「あのね、あたし達その本を取りに来たんだけど、持ってっちゃダメかな?」


「コノ本ハキケン。チカヨッタラミンナキエチャウヨ」

 ロボットは低い声で語った。

 

「あ、喋った!?」

「待て、消えちゃうとはどういう事だ!」

 姉ちゃんが叫んだが反応がなかった。

「どうやらあのロボットは、ミルちゃんの声しか聞こえないみたいですね」

 ミカがそう言うと

「……ロリコン?」

「ユカ、黙ってなさい」


「ロボットさん、消えちゃうって何で?」

 ミルちゃんが尋ねると

「ナゼカワカラナイケド、コノ本ハイキモノヲスイコムノ。ノモチヌシモミンナスイコマレタ。ダカラコレイジョウダレモスイコマレナイヨウ、僕達ガフセイデルノ」 



「え、僕達?」

「やはりか、あのロボットにはいくつもの心があるように見えた。あれは物に宿った付喪神の集合体だな」

「神である私でも敵わないなんて……なんて強い想いよ」


「でもねロボットさん、それがないと神様が困るんだって」

 ミルちゃんがそう言うとロボットの後ろにあった本が飛んできた。

「ア、アブナイ」


「大丈夫、ほらね」

 ミルちゃんがその本を手に取ったが、なんともなかった。


「ナ、ナンデ?」


「わかんないけどあたしなら大丈夫、と思ったの」

「……ア、キミハ」

 ロボットが何かに気づいたようだ。


「ネエ、オネガイ、ミンナヲタスケテ」

 そう言ってロボットはミルちゃんに向かって頭を下げた。


「うん」

「ヨカッタ……キヲツケテネ、本ヲネラッテルワルイヤツモイルカラ」

 そう言うとロボットの体が崩れ落ち、光の粒となって消えた。


「あのロボット、持ち主達に相当大事にされてたんだろな」

「そしてミルちゃんに想いを託した、か」

「隆生さん、優美子さん、あのロボット最後に言ってましたよね、本を狙ってる悪い奴がいるって」

「でもお姉様、そんな奴わたし達ならなんとかできるわよ」



「……はたしてそうかな?」

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