ヒトリノススメ

松倉愛

ヒトリノススメ


「何名様ですか?」

この言葉にめげてはいけない。気にすることなく、指を一本上げるだけでいい。


周りから切なげに見られることは日常茶飯事だが、私は一人を勧める。独りではなく、一人。別に孤独ではない。ゆったり自分の時間を過ごすだけのこと。


一時期に比べると一人で過ごす人も増えたが、それでもまだ「ぼっち」だの「お一人様」だのと「一人=独り」の認識が抜け切らない。一人で呑みにいこうものならば、「可哀想」などと言われるのだ。一人で出かけるのはとても自由なことなのに。


まず、気を使わなくていい。無理に話題を見つけて話す必要もない。(だって、相手がいないのだから)好きな音楽を聞きながら歩いても「話聞いてるの?」なんて無粋なことも言われなくて済む。

次にお気に入りの店にいつまでいてもいい。自分の好きな物を自由に見ることができるのだ。大好きな文房具店に何時間いても怒られることはない。相手の顔色をうかがう必要もないし、満足するまでいてもいいのだ。(まぁ、店員さんには微妙な顔をされることもあるけれど。)

逆に言えば好みじゃない店に入らなくてよいのだ。千差万別、十人十色。趣味の完璧合う人間に出会うことはそうそうない。もちろん見聞を深めるのも、大切なことではあるが。

そして、自分の都合を第一に考えていい。体調が優れなければ、引き篭もってもいいし、いきなり目的地を変えることだって何の問題にもならない。ドタキャンなんて存在しないのだ、一人ならね。

行きたければ、暴風雨のなか散歩したって構わないわけ。(危ないから、推奨はしないけど。)


デメリットも中にはある。例えば、慣れるのに時間がかかるとか。最初は結構人の目が気になるものだ。大型のショッピングモールなんて家族や友達連れ、恋人の集落と言っても過言ではないだろう。時たま一人でいるのは中年男性とか。女性が一人でいると結構見られる。いやいや、君たちは買い物しなよ、と思うこともある。

後はイベント事に参加しにくい。これも大体が誰かと一緒に参加していることが多い。

だが、正直なところ、上二つのデメリットは慣れれば問題はない。


私も最初一人で水族館に行った時は少年少女の目が痛かった。写真を撮ることが目的だったのが、キラキラした純粋無垢な瞳になかなか思うように行動が出来なかった。だが、気恥ずかしさと言うものは時間と共に流れて、案外平気になってしまうものだ。後半は自分なりに楽しめた。海洋生物の写真を撮り、スケッチを描き、土産を買い、ついでに自分宛にハガキを書いてみたり。


こんな風にして、自分だけの時間を過ごすことに慣れて欲しい。慣れてしまえば、今まで以上に行動範囲が広がることは間違いないだろう。映画館に美術館、水族館に……一人旅だって夢じゃない。可能性を広げるために、まずは近くのお洒落な喫茶店で指を一本だけあげてみて欲しい。


たまには誰かと一緒も大事だけどね。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ヒトリノススメ 松倉愛 @studio_mucco

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ