勝手に開く本

松倉愛

勝手に開く本

頭の中に5mm程度のチップを埋めるのが当たり前になった昨今。ちょっと前までは倫理がどうの、道徳がどうの、非人道的だの、色んな文句が出ていたけどそれも過去の話。今では当たり前になった。

このチップのおかげでみんな楽ができた。身分証明書も指先を機械にかざすだけで役所のコンピュータと連動して手間のかかるカードなんか出さなくて済む。まぁ、そもそもカードなんてとっくの昔になくなってるんだけど。

自動書籍も楽のできるアイテムの一つだ。書籍といっても形だけ。文庫本サイズでページ数は多くても30ページ。しかも、電源をつけなければ真っ白のまま。これは頭の中のチップと連動して読みたい情報を紙に見える特殊フィルムに映してくれる優れもの。特殊フィルムは従来のタブレットみたいに目が痛くなったりしないブルーライトの出ない仕組みになってるらしい。使い方もいたってシンプル。電源ボタンを押して、指先で表紙をなぞるだけ。魔法みたいだろ?それだけで、中のコンピュータがチップを通して、使用者の思考を読み取り、特殊フィルムに必要としてる情報を投影する。嬉しいのは「あれなんだっけ」なんてキーワードが出てこない事もイメージが伝わるから従来のパソコンのようにモニターの前で困らなくて済む。

一つ、難点を挙げるんだとしたら電源を切らないとそのデータが消えないってこと。消えない上に、今考えてることがそのままどんどん更新されて、新しい情報が投影されてしまうってこと。無意識のうちに考えてることも投影されてしまう。助兵衛なことを考えていたら官能小説が映ってるかもしれないし、好きな子のことを考えてたらその子の住所が出ているかもしれないし、誰かを殺そうと考えていたら殺人の仕方なんてのが出ているかもしれない。最悪、落としてしまったら大変だ。頭の中を自由に見れるようなもんだ。



……あれ、そういえば僕の自動書籍、どこにしまったっけ?





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

勝手に開く本 松倉愛 @studio_mucco

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ