第6話空腹

食料調達は己でするのがあの家のルール。その事を知らされ颯太は早速食料調達に向かう。


 「なるほど、郷にはいっては郷に従えとはこの事だな。さて、また戻って来たはいいがどうやって魚を採ろうか……俺竿も持ってないし、かといってエリカみたいに魚と獅子奮迅しあうのは御免だな、う~ん……」


 颯太が真剣に死活問題と向き合っていると突如背後からトントンと肩を叩かれた。颯太は一瞬身体が硬直し、恐る恐る振り向くと、


 「よう、お前よくこんな場所見つけたな」


 ……巨顔の魚が喋っていた。


 「ぎょ、ぎょじん?」


 驚いた颯太は裏返った声を発しながら後方に転倒した。全長二メートル位あるであろう巨魚は人の足が生えていて残念なことに意思疏通ができてしまうらしい。


 「おいおい、こんなんでビビってたらこれからやってけねぇぞ、──っこらしょ」


 魚人?は着ぐるみを脱ぎ捨てるかのように生々しい巨魚を横に置いた。

 颯太は脱いだことによって正体が露になった者を見て安堵した。


 「なんだ、タクマかマジで魚人かと思ったよ」


 颯太は倒れた身体を起こしてタクマの方を向いた。

 タクマは呆れたように颯太を嘲笑し、


 「この地域は魚人の生息地帯じゃねぇ、それに見りゃぁわかるだろこんな山奥に魚人が来て堪るか」


 ──じゃあ魚人は存在するのか、あんな子供が描いたような魚人には会いたくないな。


 「あと、こいつは俺の獲物だから横取りしたら只じゃおかないからな」


 タクマは警告をし、巨魚を軽々持ち上げ森の中に消えていった。


 ──って言うかエリカの膝位の浅瀬に巨魚がいるわけないか、ならどこであんな魚を?


 颯太の脳裏にあることばが蘇った。


 『お前、よくあんな場所見つけたな』

 「そういえばこんな場所って言ってた……な~~ぁ~」


 タクマと話した所から少し歩くとちょうど大人一人入れる位の穴に落ちていった。

 場所と言っていたため周りの自然に気をとられて足元が疎かになっていたのだ。


 「いつつっ」


 先程痛めた尻をもう一度打たれると流石に堪える。だが、着地地点にあった草木のお陰で重傷にならず幸いだった。

 どのくらい落ちただろうか、頭上にある光差す穴をみて登れそうにないことを確認。


 「おーい、タクマーおーい」


 駄目だ一番近くにいると思われる名前を呼んでも返事がない。となると取るべき行動は、


「はぁ、進むしかないのか……」


 どうやら今いる地下は洞窟になっているらしくて少し進んだ辺りから自分の足音しかしない洞窟に水が波紋をつくる音がした。

 三十分は歩いただろうか波紋の音は次第に多くなっていき遂には大空洞に出た。

 一つの天井の穴から光が泉に差し込み水底の水晶に乱反射し大空洞を幻想的に照らしていた。

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