第3話始まりの出会い

──そうか俺は消滅したのか……暗くてなにも見えない、冷たい、狭い、息苦しい、土の匂い、そして正面から誰かの声が聞こる……ん?待てよ……五大感覚器官の最低三つは正常に機能しているぞ?視覚は暗くて分からないが……あれ?これはもしかして……


 ****************


 ザクザクと掘り進める音がカツンッという高い音をたてると同時にその音が停止した。


 「よし当たりだ!」


 フードを被った少女は軽微な声で嬉しがり音の元凶を積もった土の上に放り投げた。

 少女は膝をついてゆっくり屈み、地面から顔を出した棺桶の表面の土を退けた。


 「流石、貴族の墓ともなるとそれなりに棺桶も大きくなるのね」


 大人一人入るであろう棺桶を軽々と抜き出し、流れるような手捌きで棺桶を開錠する。


 「開錠完了!貴族の棺桶だからガチガチに施錠してあると思ってたけど普段とあまり変わらないから拍子抜けしちゃった」


 少女は普段通りゆっくり棺桶を開けると中には二十にも満たない男の姿があった。

 少女は仰向けにされた男に乗っかっている金品を取ろうとした時、遺体とされている男、颯太は息苦しさからの解放と月光に照らされ目を覚ました。

 少女は突如埋葬されていた人が生き返った事態に、男は突然自分が転生し目の前に少女の顔がある事態に、理解が追い付かず、双方の時間が止まったかのように思えた。


 「「………………………………」」


 少女は警戒したのだろうか、颯太が動き始める前に後ろに跳び跳ね臨戦態勢を取りながら颯太に質問した。


 「お前、何者だ?」


 颯太は体を起こし少女を見た。少女は前屈みで腰に差してある刃物を掴んでいた。

 下手に応えたら一瞬のうちに頸動脈を斬られそうな雰囲気だ。


 「俺は岩波颯太、けして君に危害を加えるつもりはない」

 「危害を加えない?どこに信用できる要素がある」

 「確かに無いな……」


 颯太は状況を整理するために身の回りを見渡した。


 ──俺は消滅をせずになぜか転生している。ここは墓地かな?たくさん墓らしきものが見える。足元には金品ばかり入っている棺桶がある。俺の首に掛かっている宝石のペンダントような物が月光を反射してる。そして今置かれている状況は目の前の少女に敵意が無いことを示さなければ多分死ぬ。少女は何故ここにいる?周囲から察するに少女は墓盗だ。


 颯太は敵意が無いこと示すために、首に掛かっているペンダントを引きちぎり棺桶の中に入れて棺桶から少し離れた。


 「そんなかの金品は全てやるよ(元々俺のじゃないんだけどな)そして俺はお前が警戒を解くまでここから動かない」

 「ふんっそんなことで……」


 少女はまだ信用するに足らないと言おうとしたのを第三者の介入で遮られた。


 『おい!お前たちそこで何をしている!』

 「うわ、やばっ巡回の奴等か……くそっこうなったら……」

 「ぐはっ」


 少女は臨戦態勢からの前進ダッシュで颯太の腹を殴り気絶させ颯太を担いだ。 

 少女は悔しそうに歯噛みをして金品を取らずに夜の影に溶け込んで逃走した。

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