第2話リンカーネーション

本来ならもう自力で開けることの出来ない瞳を男は開いた。

 そして男は気付いた、自分の体が半透明なこと、そしてトラックに引きずられた傷がなかったことに。

 男は仰向けになった体を起こし回りを見渡すと左右に黒と白の巨大な扉、そして目の前に一人の女が背中に生えている羽を折り、木製の椅子に座りながら一枚の紙を凝視していた。

 女はまるで天使のような優しい顔立ちで輝く色鮮やかな衣で身を包んでいた。

 女は男に視線を向けられると紙から目を離し、男の個人情報を喋りだした。


 「え~っと、性別は男、年は18、身長170、体重60、茶髪混じりの黒髪、身内は父母姉妹がいて5人、趣味は釣り、特技は無しの岩波颯太君でオーケー?」

 「はいオーケーなんですけど……」


 颯太は質問を肯定して質問を仕返そうとしたところで女の声に遮られた。


 「あー大丈夫、聞きたいことは分かってるから、あなたは誰?ここはどこ?でしょ、大勢の半透明を相手してきたからそこら辺はわかるわ。ではその質問に答えてあげましょう。」


 女は胸に手をあてて颯太が知りたいことを次々に話し出した。


 「まず、私はアルミル。ここに流れ着く魂を転生させる仕事を任された天使よ。そして、ここはその魂を転生させる場所。あなたはついさっき不幸な事故にあい死んだわ。そして死んだあなたは今ここで転生を望むか、それとも永遠消滅を望むか選ぶ権利があるわ。もう人生は面倒だとかどうせ生まれ変わってもまた貧相な暮らしになるんだろうなどの理由で永遠消滅を選ぶ方もいないことはないけど、まだやりきれないことがある人もいて転生を望む方もかなりいるわ。あなたはどっちにする?」

 「そうか、死んだのか──じゃあ、消滅の方で……」


 颯太は、もしかしたら生きてるかもしれないと心のどこか思っていたのだろう少しショックを受けていた。そして颯太は、一瞬躊躇して消滅を選んだ。家族を残して親不孝をしてしまったことに躊躇ったが退屈な人生を繰り返すことが何よりも嫌だったからだ。


 「ええっ本当にそっちでいいの?転生すればまだ友達作るチャンスはあるんだよ?」


 アルミルは颯太の決断を止めるかのように転生する方を薦めてきた。


 「その友達を作るのが苦手だから転生は嫌なんです」


 その言葉がアルミルに刺さったのかしばらく項垂れていたが、ばっと顔を上げ懇願し始めた。


 「私あと一人転生させれば私は上級天使になれるんです。上級天使になれば良い待遇が待ってるんです。もうあと一人になってあなたで50人目ですよ。こんな天界の教科書に載ってしまいそうな連敗記録をここで止めなくてはならないのです。だから転生してください!」

 「事情はわかった。だかな男は一度決めたことを曲げたりしない!でどっちが永遠消滅の扉かな?」


 アルミルはガッカリしたようにうつむいて黒の方を指差した。


 「じゃあね天使さん、頑張って記録伸ばして天界一の黒星を稼いでくれよ」


 颯太はアルミルに皮肉を突き刺し、黒い扉まで歩いて両手で扉を開いた。

 颯太は黒い扉をくぐった直後、確かにアルミルの声を聞いた。


 「これからあなたが歩む道を導の光が照らすことでしょう」


 颯太は振り向くと閉じかける扉の隙間からアルミルは満面の笑みで笑っているのが見えた。

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