もう僕はここにいなかった。

暁千鶴

日常

第一話

中島光輝なかじま こうき side



目が覚めた。時計を見れば6時を過ぎて、カーテンを開ければまだ少し暗い朝日がよく見えていた。

今日は12月15日。あと10日も経てば、学生らが望む冬休みが待っている。12月中旬ってこともあるのか、半袖で寝るのには少し寒すぎたようだった。鳥肌がたっている。今日も学校までいくのが大変そうだ。

だが、鳥肌が立っているのは、寒さのせいではない。そう、夢だ。


『命と同じくらい大切なものはなんですか



そう語りかけていた人がいた。夢の中でだが、確かに声が聞こえたのである。その事さえ、普段見ることのない夢で言われているのだから不思議に思うのが当然だ。


「命と同じくらい大切なもの、か。」


いつもは寒くて出られない布団をやっとの思いで抜け、僕は起き上がりベッドから足を出した。だめだ。寒すぎる。洗面台へ向かい、寝起きの自分と鏡合わせになる。目立ちすぎた寝癖がよく寝た証拠だろう。直すのが面倒くさくって、いつも通りそのままにほっておいてやった。顔を洗い、目を限界まで見開いてみた。グーーーっと目の筋肉が伸びて、眠くて目が閉じる心配も無くなった。そんな心配どこでするのか。…授業の居眠りだよ。


「それにしてもお母さん達はまだ寝ているのか。じゃあ今日は早く起きすぎたんだ。」


いつも一番遅くに起きる僕は、起きた頃にはご飯が既に出来上がっていて、みんなが食卓にならんでいる頃だった。起きるのが遅いとたまに、二歳年下の妹が起こしに来ることもある。そのお越し方が恐ろしくて……。駄目だ。考えるのはよそう。


「昨日は授業、何したっけ」


昨日は火曜日、あれ。昨日にやった内容が思い出せない。例えば理科、昨日の分のノートはちゃんととってある。けれど覚えている内容はもっと先の内容で、昨日の内容は昔のように色褪せていた。全くではないが、昔のことなんて覚えていないかのように、ほとんど覚えてなかったのだ。ノートの取り忘れだとは思ったけれど、今日これからやるはずの実験。楽しかった思いでか、何故かその実験の結果や考察、クラスメートの失敗等を覚えている。いや、知っている。なのか……?


そもそも今日の目覚めはなんなんだ。やたらと早く起きたと思ったけれど、よく考えたら、凄くよく眠っていた気がする。ほら、人間って感覚でどのくらい寝たかわかるじゃん。だから寝不足とかって解るけれど、僕の場合なぜか、一日以上寝ていた気がするんだ。寝過ぎか?

……いやいやいや、勿論今日の夜しか寝ていない…はず。

だって寝る前に習慣のように聴いているその日の音楽の名前だっておぼえ……て……な…い?

ちょっと待て!どうして記憶がない。その日に聴いた物は毎日のように覚えたいたのに。……そもそも最後の記憶はいつだっけ。

思い出せ……思い出せ…。思い出せ中島光輝!!


「いや、朝から混乱するのはやめた方がいいね」


冷静になろう。どうせお昼にでもなれば、きっと頭が一番冴える時間になって、すぐ思い出す。きっと。



6時半。隣の部屋から目覚ましのアラームが鳴った。チロリロリロリロリ、チロリロリロリロリ……。よく聴いたことのあるフルートの音楽。5回くらい鳴った後に6回目のチロリロリロリロリの途中で音が遮られた。学生時代お母さんはフルートをやっていた。お父さんと結婚してからずっとアラームこれなんだって。お父さんが言っていた。なので、残りは妹だけだ。

妹は恋歌。恋に歌とかいて れんか と読む。恋歌は毎日ぴったり7:00に起きる。はは、ドアの前で待ち伏せしといてやろうかな。

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