スズメの涙

@keepkeep

スズメの涙

羽が折れきって傷付いた、飛べないスズメがただ一匹。あんよは上手に、地をかける。

仲間に付いては行けないから、ひょいひょいひょいとひとりで走る。

でも寂しくなんてなかった。もともとひとりだったから、全然寂しくなんてなかった。


走る、走る。飛べないスズメは今日も走る。


今日は電柱にぶつかってしまった。それは走ることが得意で、それしか出来ないスズメには珍しいことだ。

いったいどうしてしまったのだろう。スズメは痛む頭を抱えて驚いた。


走る、走る。飛べないスズメは今日も走る。


今日はなんとなく空を見ていた。ウルサイ人間がいない川辺で、なんとなく。

空の向こうに仲間が見えた。みんな一緒に飛んでいる。仲良く、仲良く。

それがどうしたとスズメは嗤う。それがどうした、僕はいつだってひとりで……

スズメはなんだか胸が苦しくなった。おかしいな、こんなのいつもの事なのに。


走る、走る。飛べないスズメは今日も走る。


なんだか、最近足が痛い。食べ物探しをしてるときに、人間たちから逃げ回ったからだろうか。

でも、走らなきゃ。僕は、僕にはそれしか出来ない。飛べないスズメは走る。


走る、走った。走り疲れて倒れたスズメ。それでも飛べないスズメは走ろうとした。


どうしたんだろう、今日は走れない。誰よりも速く走れたのに、それだけが誇りだったのに。どうにも今日は、走れない。スズメはひとりで驚いて、山奥にひとり逃げ込んだ。


歩く、歩く。飛べないスズメは今日は歩く。


歩かなければ、生きられない。食べ物を探さなきゃ。でもなかなか捕まえられない。困ったな、どうしよう……


止まる、止まる。飛べないスズメはとうとう止まる。


おかしいな、おかしいな。もう、歩くことさえ出来ない。お腹が減ったな……


スズメはそれでも足を動かす。


生きなきゃ。生きたい。こんなので、終わるのは嫌だ。誰か、助けて……

向こうに飛んでるスズメたちが見えた。自由に、どこまでも飛んでるスズメたちが。


助けて!助けて!とスズメは叫ぶ。だけど、空までその声は届かない。


とうとう声も出なくなった。スズメはなんにもできなくなった。


ああ……こんなので終わるのか……嫌だな……嫌だな……


そうして、スズメの涙が落っこちた。僅かに、僅かに落っこちた。


あの空を……飛びたかったなぁ……


スズメはとうとう、飛べなかった。

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