ペーパークロマトグラフィー

ロッキングチェアに座って手に届くところに祖父の残した同人誌が置いてある。

ガリ版印刷のものから、最新のは輪転機を使ったものもある。

活字のひとつひとつがインクのにじみを含んでいる。


線数が少なくなるほど紙の地になっていき、明るく見える。

暗い部分程沢山のインクが塗りつけられている。


ところで僕は文章を覚えるのが得意ではない。単語もすぐ忘れる。

いつも一冊を10ページほど読んだ位置で、もう一度最初から読み直す。

読み直しているうちにロッキングチェアの微かな揺れも手伝ってうとうととしてしまう。

そんな秋の昼下がり。


父はラディアルスキャン方式の小さな、真空管テレビで白黒のアニメを見ていた。

街の人々がスクラムを組んで敵のよそ者と戦っていた。

特にそれに見入るわけでもなく、やる気のなさそうな父はパンをくわえてぼんやりとしていた。

パンに塗ったバターの四角い部分が、もう耳からはみだしかけている。


番組はVHS式のビデオで放映される。

VHSは音が大きく、フィルムの音がうるさく響き渡る。

ところでこのアニメの時代にどうやって番組をビデオで録画したのだろうか。

ひょっとして父は僕が眠っている間にVHSの録画用の機械を持って何らかの方法で過去へ出向き、そして何もなかったかのように朝それを確認している。


父が帽子をかぶる。ドアの外に出ると街頭にはガス灯が立っていた。

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