桃子

桃子は僕のガールフレンドだ。僕に友達はいない。

関わる人全ては情報の共有者であり、その中での桃子はfemale、という情報を提供してくれる存在だ。母性や全体的に凹凸が緩やかであり、ダイナミックな動きより微細な、視覚で確認できる作業が適している。もっと微細な顕微鏡で確認できるような作業はむしろmaleに適しているといえる。それは例えばICチップの作成であったり、旋盤工であったり。旋盤での作業も視覚での確認はするが、どちらかというと平衡感覚が必要になってくる。水平と垂直の感覚である。femaleは空間認識にやや歪みがある傾向にある。道順を覚えられないのもその一つである。だからいつもここに来るまで迷って、その結果色々な店に寄ってきてはあまり好きでもない甘いお菓子を何個も何個も買ってくる。その中でも中国製のお菓子の桃のパッケージがとても印象的だったので、僕は彼女を桃子と呼ぶことにした。




桃子はよく僕の部屋にくるのだが、いつも僕が眠っているうちにいつのまにかいる。



桃子とは酒屋の裏の空き地で出会った。

黄色い酒瓶用のプラスチックケースの上にベニヤ板を敷き、ビー玉をはじいて遊んでいたのだ。ビー玉は水を入れた駄菓子の瓶にぎっしりと詰め込まれていた。


そこでケースの中に落っこちたところを、酒ブタを探していた僕も一緒に探したのだ。

結局ビー玉はドブの側溝に吸い込まれるようにしてごくごく自然な軌道を描きながら消えていった。


ドブのふたを、僕は近くにあった針金でこじ開けた。中を探したが、ドブの溝はわずかに傾斜していたようで、水は流れていなかったが黒い線を付けながら深くまで転がっていってしまったようだ。


落胆した顔をした桃子のために僕は見つけた酒ブタを渡した。

「ありがとう。これは宝物。」

そう言って酒ブタの白い筒状の出っ張りに触れていた。コーヒーに入れるミルクの入れ物ほどの出っ張りだった。表面には金に縁どられた赤い文字が光っていた。

クラスメイトの多くが酒蓋を集めていた。友達のいない僕は何に使うかは知らない。



C20H27NO11


傾斜する面に転がっていくビー玉の軌跡

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