エピローグ「これが俺の過労で倒れるに至る長い経緯」
あれから数日後、何故か俺の自宅で恭子たちのクラスの学園祭打ち上げ及び、途中退場してしまったにも関わらずダントツの一位で新しくミス・タコガクに輝いた恭子へのおめでとうパーティーが行われていた。
普通のマンションに比べれば俺のところは多少広いかもしれないが、それでも2~30人が入ると恭子と俺の部屋を開放してもギュウギュウ詰めだった。
流石に恭子の部屋には男子生徒が入らないように、三田原なんとか君が必死でガードしているが、それも時間の問題だろう。
「まあ、仕方がないですよ。渡辺さんが倒れた所為で本来なら当日の夜に行われる予定の打ち上げが延期になってしまった上に、そのときに振舞われる予定だった恭ちゃんの手料理をみんな食べられなかったんですからね」
姫ちゃんがブツブツ文句を言う俺をなだめる。
一緒に働いている生徒はその場で恭子の出す料理を食べることはもちろんできない為、模擬店をそのままにしておいて学園祭が終った夕方からそこで打ち上げをやる段取りだったらしい。
そりゃ、俺の所為に違いねえやな。
「姫紀お姉ちゃんの”ときめき★ナポリタン”あがりました~」
キッチンから恭子の声が聞こえる。
「は~い今取りに行きま~す……って!!クラスの受け持ちじゃないのに殆どの模擬店のメイドをひとりでやらされた私を労って打ち上げに呼んでくれたはいいとしても、なんでここでも給仕をやらされなくちゃいけないのよぉぉぉ!!」
みっちゃん先生とやらがブツクサと何か叫んでいるようだが気にしないでおく。
終わってみると、あの模擬店は『相葉都華子のひとりメイド喫茶』というよりは、ほぼほぼ『みっちゃんのひとりメイド喫茶』でだったみたいだな。
「姫ちゃんや。俺が言った通りだっただろ?恭子の反応は」
あの日全てが終えたあと、彼女のマンションで姫ちゃんはとうとう恭子に彼女が隠していた真実と自分の想いの全てをぶつけた。
と、言っても姫ちゃんの土下座から始まった懺悔のようなカミングアウトだったような気もするが。
「……ほんとに恭ちゃんっていい子です。でもウチのマンションで一緒に暮らさない?っていうお願いには見事に振られましたけれどね。ほんっと、直前に直樹が妙なこと吹き込まなければうまくいったかもしれないですのに」
恭子の居場所とすれば俺のところか、元の叔母のところしかない。
そこから、姫ちゃんが実は血の繋がった親戚だと打ち明けた上で自分と一緒に暮らしてほしいと懇願したのだから、俺の元から離れなきゃいけないと思った恭子が姫ちゃんを選ぶのは至極当然のことであっただろう。
しかし、後から聞いたが恭子の反応は意外も意外だったらしい。
『ごめんなさいっ、おじさんには私がついていないと本当に死んでしまうかもしれないんですっ!!!』
直樹が何をどう恭子に吹き込んだかは知らないが、なんか素直に喜べんわ。
ちなみに、奴を学園祭で見かけないと思ったら、当日の明け方に俺が帰った後も会社に残っていた直樹が他部署から緊急の業務連絡を受けて夏海と一緒に仕事をこなしていたようだ。
2人入ればなんとかこなせる作業量だったみたいだけど、上司の俺への報告を怠っていたのは事実だったので、もう一度”
どうも、デスマーチを期間内で終わらせるために俺がやった
あの日からちょいちょい恭子が本当に寝ているかどうか俺の部屋をこそっと覗き込んでくるのはその所為か。
もし絶対に見られてはいけない男の戦いの最中を恭子に覗かれたらどうすんだよ。
「でも私、まだ諦めていませんからね。私のマンションを引き払うっていう、とっておきの手も残ってますし」
大丈夫、そのうち『きゃあっ!おじさん不潔ですっ』って黄色い声を上げながら恭子がここから飛び出す可能性も無きにしも非ずだから。
って、ん?姫ちゃんが自分のマンションを出るのに何の意味があるんだ?
「あ、ひょっとして吉沢の本家本宅に戻るとか?病院のVIPルームの一件でとっつぁんにも新帝王吉沢姫紀がばれちゃったしな」
「そんなわけがないでしょう……ねぇ、渡辺さんはどうしてこんなに鈍いのです?なんで、ねえ、なんでなんで」
知らねえよ、俺の頬っぺたをペチペチすんなや。何が言いたいんだこの姉ちゃんは。
そもそも、恭子にとって俺は『おじさん』なのに姫ちゃんが『姫紀お姉ちゃん』なのが解せん。
それと、最後にあの踊りの生放送がどうだったのかを話しておこう。
俺が言うのもなんだけど、連続して踊るという無茶な事はもうやめておいた方がいいと思った、うん。
最後の方なんて手と足をフラフラさせていただけで踊り呼べるかどうかも怪しい。
頭もふわんふわんしていて、よく覚えていないけど15、6周目あたりに恭子が突入してきたので俺は大の字になって床に寝転んで終了。
その時に多少は恭子とキャッキャウフフなやり取りもあったかもだけど、そこは生放送を見てくれた人だけの特典として割愛しておく。
まぁ、あれだ。長くなってしまったが、これが俺の過労で倒れるに至る長い経緯。
(完)
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