独身男の会社員(32歳)が女子高生と家族になるに至る長い経緯

あさかん

第1章

独身男の会社員(32歳)が踊ってみた動画を投稿するに至る長い経緯

プロローグ「深い闇の世界で呼ばれた声」

 プロローグ


 俺の名前は渡辺わたなべ 純一 じゅんいち、職業は会社員リーマンで32歳の独身男。

 

 片親で育った一人っ子俺には特に交流のある身内などは居なかったが、そのかわり兄のように慕う人が近くに居た。

 自分と同じような境遇だったからなのか、隣に住んでいた俺を事あるごとに目をかけてくれ、いつからかその人のことを俺は師匠と呼んでいた。

 

 何で師匠なのかは、単純明解。

 

 尊敬できる人だったからだ、憧れでもあった。

 自分の目標、つまるところ俺は師匠のような大人になりたかった。


 師匠が家庭を持つようになってからも俺はよくお邪魔させてもらっていて、そのつど美人の奥さんは満面の笑みで俺に豪華な手料理を振舞ってくれた。


 夫婦揃ってまるで俺を家族のように接してくれて、


 訃報を知ったのは半年前、出張先で聞かされた。交差点で信号無視による横からの直撃だったらしい。交通事故の相手は盗難車両を酒気帯びで運転する無免許の未成年。実名の伏せられた加害者によって3人が乗るステーションワゴンは見るも無残な姿になり、被害車両の搭乗者はうち2人が亡くなった。


 奇跡的にも軽症で助かったのは後部座席に乗っていた神海こうみ 恭子 きょうこ、師匠たちの仲睦まじい3人家族の中で唯一生き残った15歳の一人の女の子。


 今から始まるのは俺とその娘との物語。




 既に親を亡くしている師匠たちに信頼できる身内はいなかった。

 師匠はよく俺と飲んでいる時に「俺の親戚どもは腐っている」と幾度か愚痴を溢していたのを覚えている。そして自分の身に何かあったら恭子の事を気に掛けてやってくれやと溢した愚痴のバツの悪さを誤魔化すように言っていた。


 恭子は師匠達の葬儀の後、親類縁者の間で厄介者のように押し付け合いになりながらも、二人の残した僅かな遺産目当ての叔母の家で預かる事となっていた。

 師匠の愚痴もあって恭子の事が気がかりだった俺は、葬儀から半年も過ぎてしまっていたが、出張先から戻ったその足で恭子の姿を急ぎ見に行った。


 結論から言うなれば、壮絶だった。

 

 本当に腐っている人たちだ。家に部屋が余っているのにも関わらず恭子の部屋は遺産の一部で建てられた庭のプレハブ。恭子はいつもそこにいて、家に入るのは食事を”取り”に行く時だけ。

 

 訪問した時に叔母である人に挨拶がてら恭子の様子を聞いてみると、「最近顔も見てないから知らない」と、そんな言葉が返ってくるだけで、まるで他人の扱い。

 

 それに対する怒りより恭子への焦燥感が先走る。

 

 恭子の精神状態への不安と恐怖。

 

 俺は急ぎプレハブに向かう。早くあの子を確認したかった。

 

 ノックもせずに、汗で滑るドアノブをどうにか握りしめて扉を開けた。




「…………おじ、さん」




 小さな机と衣類棚しかない部屋の真ん中で一人の女の子はぽつんと座っていた。

 その子には表情と呼べるものなんて存在しなかった。視点の定まっていない瞳は、まるで死人のようなそれ。

 

 しかし明らかに見てわかる極限な状態にあっても、確かに俺のことを認識していて、無表情だが小さくおじさんと呼んでくれた。

 

 暗い闇の世界で恭子が俺を呼んだ。


 そんな恭子に俺が掛けた声はきっと無意識に発せられたものだっただろう。



 「俺のところに来ないか?」

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