【Episode:15】 戦いの序曲 ― Battle of Overture ―

朝焼けのベルベット

 巨大殺戮兵器レヴィアタンとの一戦を終え、順調に航海を続けたエノシガイオスは、インド洋を越え、大西洋の縁海であるカリブ海へと入り、グレナディーン諸島近海にまでやって来ていた。要塞までは間近に迫っている。


 海原と接して頭上に広がるのは、玉虫色に染まる朝焼けの空。


 だが、その幻想的な光景に嘆息している暇はなかった。


 その朝焼けの空の遙か遠方に、埋め尽くすように数多の黒点が浮かび上がっている。

 ドットを描くようにして、整然と並ぶそれらは、敵の無人戦闘機部隊ヴァルチャーズ。それぞれが乗る機体のレーダーも、その黒いコンドルの群れに反応を示している。



「盛大なお出迎えだな」

 とジークが唇を舌で舐めながら。


「三百はくだらないわね」

 とノア。


「それに、あれで全部ってわけでもないだろうからな」

 とハルキ。肌を焦がすような緊張感に、震えそうになる声をなんとか鎮めながら。


「うん、そう考えておいた方がいいと思う」


「どうだ、やれそうか?」

 ジークが尋ねた。


 カリブ海に入るまで自動航行していたガイオスの中で仮眠をとったとはいえ、数日間に渡る合宿の訓練や、先のレヴィアタンとの戦いで蓄積された疲労の残る身体に、十分な休息が得られたというわけじゃない。

 だが、不思議と身体が重いなんてことはなかった。

 初の大規模な実戦を前にしているわけだが、緊張感は程よく身体を引き締めている。

 使命感、そして、戦いに向けての高揚感のようなものだろうか。

 それらが、自分に力を与えてくれていた。


「ああ、やれるよ」

 とハルキ。怖じ気づいたところで、今更引き返すことはできない。


「どれだけ数を集めても、敵じゃないわね。戦いは数で挑むわけじゃない」

 とノア。自信を滲ませる言葉は、自身を鼓舞するためでもあるだろう。


「よし、それじゃあ、作戦はどういう感じで行く?」

「『Operation Phoenixオペレーション・フィーニクス』の本来の作戦では、ジョシュアとガイオスで陽動することになっていたけど、既にこっちの出方がばれてしまっている以上、これだけの数を相手に、戦力の拡散は、各個撃破の餌食になるから、避けた方が無難ね」

「そうだな。それじゃあ、正攻法で行くか」

 とハルキ。


「下手な小細工はなしだな。その方が性にあってる」

 とジーク。


「うん。ガイオスの援護を受けながら、ジョシュアとヴィマーナで敵の陣形を崩す、それで行こう。でも、いくらプロテクション・フィールドで守られているからって、エネルギーには限度があるし、それが尽きたらアウト。互いをかばい合いながら、ってことを忘れずに。例えブレインBコンピューターCインターフェイスI・システムのおかげで、三百六十度全方位が知覚できるからって、それに対応しきれるかどうかは別問題なんだからね。それと、補給のことも常に念頭に入れておくこと」

「分かった」「OK」

「うん。それじゃあ、盛大な歓迎のお返しに、しょっぱなからとっておきを見せてあげましょうか」

 と悪戯っぽく笑みながら。


「そいつはいいね。敵さん、大喜びするだろうな」

 とジークも楽しげに。


「エネルギーの充填は?」

 ハルキが尋ねると、

「既に充填済みよ。カウントダウンを始めるわね」

「了解」「かましてやれ」


 機械的な合成音声が、カウントダウンを告げる。

〈10、9,8,7,6,5,4,3,2,1--〉


「主砲、発射!」


 ノアの号令とともに、エノシガイオスの艦橋から突き出た巨大な主砲から、反粒子である陽電子の束が放たれた。



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