飛来する竜


 ハルキが、まだ先程唇に触れた感触を感じながら、しばらくぽかんと立ち尽くしているところに、背後の甲板に、ずしんとなにかが舞い降りる音がした。


 驚きに振り返ると、そこには、一体の鈍色にその体躯を輝かせる竜がいた。


「お前、あの時の……」


 リンドブルム。

 あの古ぼけた洋館に住んでいるヨハンの元にいたロボットの竜。

 ノアを襲おうとして、ヨハンにレーザー・ライフルで撃ち抜かれて壊れたと思っていたが……。


 そのリンドブルムは、口になにか咥えている。

 小さなアルミ製の缶だ。


 リンドブルムは、その口に咥えていたアルミ缶を、首を曲げて甲板に下ろすと、

「ギャアッ!」

 と一声鳴き、翼をはためかせてみせた。


「……開けてみろって言ってるのか?」


 ハルキは怪訝ながらも、その置かれたアルミ缶を拾い上げてみた。

 そのアルミ缶の蓋を開けると、中には、一通の便せんが折り畳まれて収められていた。


 その便せんを開く。


人工知能AIプログラムを新しく作り替えておいたから、もう二度と人間を襲うことはないから安心しろ。

 戦いに向けて、ボディの表面を、レーザーの反射効率が高い素材に変えてもおいた。

 無人戦闘機部隊ヴァルチャーズを相手にそれで立ち向かえるとは思えないが、なにかの役には立つかもしれない〉


 表面にはそう記されていた。

 裏面に返してみると、


〈勝て〉


 たった一言、そう記されていた。


 それを読んだハルキは、思わずこみ上げた笑いを吹き出しながら、

「ヨハンさんらしいな……」


「ギャァアアアッ!」

 代わりに答えるように、リンドブルムがもう一声大きく鳴いた。


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