グリム・リーパー

咲部眞歩

グリム・リーパー

 何故そこにいるのか、と訪ねても少女は顔をあげることはなかった。窓辺の棚の上に座り寒さを和らげるようにマグカップを手で包んでいる。黙って外を見つめる瞳はよく見えないが、窓に映ったぼくを確かに少女の瞳は捉えていた。

「魂の色を見ているの」

 魂の色? とぼくはオウム返しをしてしまう。目の前の少女から発せられる言葉としては違和感のあるものだった。

「そうよ。この白と黒の世界で、死期が近い魂は最期の輝きを放つの。それは、とてもきれいなの」

 少女が窓辺に手をかざす。すると、眩く輝く光が彼女の手に収まり、その先には同じ光の細い糸が続いている。

「これが、死期の近い魂。きれいでしょ? この糸が肉体とのつながり。これを切ると人は死ぬわ」

 死ぬ、と少女がいうと光の塊がぶるぶると震える。少女が塊から手を離すとリールで巻かれるようにそれは元の肉体へと戻っていった。

 ぼくの魂は? そう訊くと少女が初めてこちらを向いた。白と黒の世界で、その瞳だけが金色に光っている。

「たまあにいるの、あなたみたいな人が」

 ぐにゃりと何かが抜け出す感触。うめき声と同時に強く目を瞑る。だけど目蓋の外側から強い光を感じてゆっくりと目を開けた。

 色のついた世界。色に溢れた世界。瞳の色と同じ髪の毛を持つ少女。そしてその手には、先ほど見た眩く輝く光。

「死期が迫った人が自らわたしのところにやってくる。餌を与えられているようでどうもいい気持ちがしないのだけど、これも仕事って割り切るしかないのよね。今なら見えるでしょう、魂と肉体をつなぐ糸にかけられた鎌が」

 少女が言っていることをぼくは正確に理解している。つまりぼくはもうそろそろ死ぬのだろう。だがいたって冷静だった。自分の死期とはどれほどの恐怖感かと思っていたがそうでもない。

 それは何より、この色のついた世界と、その小さな身体とミスマッチな無骨な鎌を持つ目の前の小さな少女が美しすぎるからだ。

「嫌ね、これから死ぬのにニコニコしちゃって。ようこそ、一瞬の世界へ。さようなら」

 瞬時に世界が暗転した。

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グリム・リーパー 咲部眞歩 @sakibemaayu

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