第22話 女騎士さんは、駆け落ちしたくない

「どーいうことなん……」


 ロインは目が点になった。

 友達が、魔族と駆け落ちしたら、賞金稼ぎになって戻ってきたからだ。


 城下で再会した旧友を王宮に招き、黒騎士と駆け落ちした後の話を聞いていたロインだったが、内容がロック過ぎてさっぱり頭に入らない。


「ちょ、よくわかんないんだけど……」

「あんたたちの馴れ初めより分かりやすいと思うんだけど?」


 そう言われると言い返せないロイン。

 自分が魔王城に滞在している理由を、簡潔に説明出来る自信がない。


「おとといあたり、お尋ね者を追って城下に来たら、あんたのママさんとバッタリ会ったんだよね。おどろいたよ~。魔王様と婚約したっていうんだもん」

「うう……、会ったんだ……」

「うっわ、うちのクラスから異種間婚姻するの二組目か~? とか思ったらなんか違うって言うし……」

「まあ、いまのところ……」


 自分のことを追求されると、急に覇気がごっそり落ちてしまうところが、ロインの胆力のなさというか、未熟さというか、何というか。


「そっちだって。なんで賞金稼ぎになってるわけよ」

「そうそう、それなんだけどさ――」


 女子の話はしょっちゅう脱線したり違う話がカットインしたり蛇行したり、と要領を得ないのでバッサリ割愛要約すると。




 ロインの同級生、ルーテをその自宅・監禁部屋から救出した、恋人の黒騎士・ハーティノスは、逃避行をしつつ、彼女の親が差し向ける大量の刺客を全て切り伏せた。

 その後、いくつかの首とともに、『これ以上の追求をするなら自身の首の心配をせよ』との書き付けを添えて、彼女の実家に送りつけた。


 追っ手がぱったり途絶えた後、彼は恋人を養うために職に就くことにした。

 現状ではまだ魔族と人間のカップルは風当たりが強く、一カ所に落ち着くことが難しかったので、職探しは難航した。


 逃避行や就職活動を続けて街を点々としていた間、自分がいなくても身を守れるようにと、黒騎士はルーテにあらゆる武器の扱いを教えた。

 ルーテが城下で見せた弓の腕前も、彼の指導によるものだった。


 ……二人で旅をしつつ、技術を生かして生活費を稼げたなら。


 彼が二人の幸福を最大限に得るために選んだ職業が、お尋ね者を捕まえる、『賞金稼ぎバウンティハンター』だったのだ。




「というわけで、獲物を追ってきたらここに来ちゃったわけよ」

「どんだけ波瀾万丈な生活してたのよ」

「にわか騎士のロインさんにはマネできねーわな(笑)」

「晶、あとで殺す」

「逆に、魔王に向かって『殺す』とか言えるあんたの方がすげーわ……」


「して、陛下。しばらくお会いしないうちに、ずいぶんと雰囲気が変わられたようで……。やはり、ロイン嬢とのお付き合いが原因でございましょうか」


 ギク。


「お、おお。そんなところだ。貴殿はどうだ?」

「そうですなあ……」


 チラ、と愛しい人を見る黒騎士。

 ポッ、と頬を染める。


「おま、純情かよ、五右衛門かよ(怒)」

「は、いえ、まだなにも申し上げては……」

「すまん、気にするな」

「はッ」

「……で、これから先のアテはあるのか?」

「まだでございます、陛下」


「――でしたら」

 脇で仕事をしていたモギナスが口を挟んだ。


「でしたら?」

「まもなく城下にバウンティハンター協会の支部が出来ますので、そちらにお勤めになられてはいかがでしょうか」

「内勤か? モギナス卿」

「宮仕えをお勧めした方がよろしかったですか?」

「いや……それはちょっと……」

「現在協会は、大使館の一室で仮営業をしているのですが、専用の施設が間もなく完成致します。そこで職員を大量雇用する必要がありましてね。貴方でしたら、太鼓判を押して重役待遇で推挙するんですが……。いかがです?」

「それは……天下りではありませぬか、モギナス卿?」

「うふふ、そうとも言いましたかね」




 お茶菓子をパクつきつつ、黒騎士たちの会話に聞き耳を立てていた女子、二名。


「……なんか、ハーさん仕事決まったっぽいね」

「だね。助かったわ。この街ならある程度腰を落ち着けられると思ってたけど、相方の仕事より私の方が先に就職出来ちゃいそうだったから……。

 住処を決めてしまうと賞金稼ぎはやりにくいからね~」

「なんか苦労してんね、あんたたち」

「あの人不器用だから、普通の仕事向いてないし、しばらく私が居酒屋で働くか~、なんて思ってたんだよね~」

「あたしそんな気力ないよ~。駆け落ちとかぜったい向いてなーい」

「だーかーらー、魔王のお妃に落ち着いちゃいなよ~」


 ピク……。

 魔王・晶の耳がダンボになった。


「う~ん……」

「ただでさえ、あんたものぐさなんだから、使用人とかたくさんいる生活の方がいいでしょうに。自分の部屋とかもーぐっちゃ――」

「あーあーあーそれ以上言ったらころすーころすころすーこーろーすーーー」

「あんたの部屋見せてみなさいよーコラー」

「だいじょうぶですー。ロインさんには優秀な侍女がついておりますのでお部屋の方は汚部屋になってないので見なくてもだいじょうぶですー」


「ったくケンカすんなつってんでしょ、あんたたち!」


 晶が割って入る。


「あー、ロインさんのお世話は当方でしっかりさせて頂いておりますのでー、ルーテさんにおかれましては、ご心配されませんようお願い申し上げたく候でござるよ」

「……はい」

「なに聞いてんのよ晶、割り込まないでくれるー?」

「おいおま、360度全力で噛み付く構えなの、やめてくんない? さすがの俺様でもいい加減そのノリついていけないよ? 思春期かよ? ああ?」


「お茶、入れ替えたよ。飲んで」

「うわ! おま、どっから沸いたんだよ」

「沸いてなどいない。数秒前からここにいた」

「そ、そか……」


 ウサ耳が、お茶を入れたカップを晶たちの前に置いていった。

 彼等が手をつけずにいると、薬師が言った。


「安心してほしい。普通のお茶だ。冷める前に飲むといい」

「お、おう……」


 口をつけるまで、横で突っ立っていられるのも困るので、晶たちはお茶を飲んだ。


「なんだ、いつものお茶じゃん、晶」

「……そうだな。考え過ぎか」


 ウサ耳は会釈をすると、お盆を持ってすたすたと部屋の隅へと去って行った。

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