第4話
日が暮れてきた。少年は金貸しが外出するのを見定めて、その屋敷に忍び込んだ。
しかしこの金貸し、すでに散々人から恨まれ、何度も危険な目にあっていた。この家には傭兵上がりの下男が雇われていた。
下男は物音を聞くと愛用のライフルを持って二階から降りてきて、侵入者の少年の頭をものも言わずに一発撃った。少年はその場に倒れて死んでしまった。
しばしの後、彼は肉体の衣を脱ぎ捨てて舞い上がり、天井を通り抜けて、屋敷の屋根に出た。
すると屋根の上に、青白い痩せた少女がひざをかかえて座っていた。
「残念だわ。こんなことになるんじゃないかと思った。だから止めたのに、あなた耳をかさなかったのね」
すると少年がようやく彼女の言葉に反応した。
なにしろ彼には今初めて彼女の姿が見え、声が聞こえたのだ。
「きみは誰だ? おれを知っているのか?」
「昼間からずっとあなたと一緒にいたわ。弟さんの薬代が欲しいんでしょう? いらっしゃいよ」
二人は町の上空を横切り、川のほとりの少女の家にやってきた。
真っ暗だったが、今の二人には暗闇でもものが見えた。
少女は彼を叔父の部屋につれてゆき、金貨のありかを教えた。
「このことはまだ誰も知らないの。ああ、それは」
と、少年が死体を見ているのに気付いて言った。
「腐敗する前に大学病院に売るといいわ。少しはお金になるでしょう」
「きみも殺されたのか?」
「あたしのろくでもない想像力が出来損ないの心臓を殺したのよ。あなたの思い付きがあなたを死なせたのと同じようにね。今のあたしに、この金貨を運ぶことはできないわ。誰か生きた人間に知らせて、その人間に取りに来てもらうよりほかないの」
「思うんだが……」
と少年は言った。
「人の運命は、そう簡単に変えられるものじゃないのかもしれない。ましてや死んでしまった者が、生きた人間に干渉することはできないのかもしれない。なぜって、そんなことができるなら、世の中はもっと違ったものになっているはずじゃないか。でも幽霊に隠し金庫のありかを教えてもらったなんて話は、今の今まできいたことがないぞ。つまり、やつら生きた連中には、おれたちの話が聞こえないんだ」
「でも、あたしは行くわ」
「行くってどこへ?」
「他にもお金に困っている人がいるはずよ。そうしてどこかに、万に一つ、あたしの声が聞こえる人がいるかもしれない。あなたも試してみるといいわ」
少女は再び天井をすりぬけて、夜の中へ飛び去った。
少年が町へ戻ってみると、彼の妹が母の形見のドレスを着て路地裏に立ち、身売りしようとしていた。もうそれしか稼ぐ方法がなかったのだ。
少年は妹の周りをぐるぐる回って、呼びかけた。
「ああ、そんなことをするな。金なら手に入る。おれが金のありかを教えてやる。頼むから話を聞いてくれ。今すぐやめろ!」
だが、妹には彼の声が聞こえない。ただ、いっそう空気が冷たくなったのを感じただけだ。
彼女はショールをきつく肩にまきつけ、建物の隙間の星空を仰いだ。夜は長く、行く末は暗い。涙がひとつぶ、幼い妹の頬を転がり落ちた。
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