第2話

 するとどうだろう、中にはまばゆいばかりの金貨が、ぎっしりと詰まっているではないか。


 少女は息がとまるほど驚いた。とっさに蓋を閉めてあたりを見回し、それからまたちらりと中をのぞいては蓋を閉めた。


(たいへん、おじさまの隠し財産だわ。これであたしは大金持ちだわ)


 たちまち彼女の脳裏には、薔薇色の空想が花開いた。


 その金を使って町のアパルトマンに住み、これまでとは違った楽しい優雅な生活を始める、という想像だった。


 きれいな服を着ておいしいものを食べて、友達を招待してお茶やお菓子をふるまって――そうだ、恋だってできるかもしれない。音楽会や劇場へ行こう。本だってもっとたくさん買える。


 同時に暗い妄想もあった。これまで会ったこともない親戚が登場し、遺産の分け前を要求する。こじれて裁判になる。投資に失敗し、株で損をする。


 または、愛した男は彼女の金目当てに婚約したに過ぎず、裏で別の女性と逢引している。


 泥棒に盗まれる。

 詐欺師に騙される。

 強盗に遭う。

 誘拐される。

 殺される。


 禁断の門は開いてしまった。さまざまな空想がとめどなくあふれ出し、竜巻のごとく吹き荒れた。

 

 そのひとつひとつが、どれも本当の出来事のように生き生きと、彼女の脳裏に映し出された。


 その間中、彼女のあわれな心臓の動悸はどんどん速く、どんどん激しくなり、ついに限界に達した。ぷちんと何かがはじける音がした。


 次の瞬間、少女は床にくずれて息絶えた。


 十八年間、静かな変化のない生活の中でどうにか生きながらえてきた彼女の心臓は、この過剰な負荷に耐えかねて、永久に鼓動を止めたのだった。


 少女はふわりと天井に浮き上がった。


 床の上には自分の、蝋のように蒼白な顔。細い身体は壊れた人形のように四肢を投げ出して横たわり、そばには掃除用のモップが転がっている。


(あらまあ、あっけない人生だこと)


 少女の幽霊はため息をひとつ残して、天井を通り抜け、空へと舞い上がった。

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