死んだ少女と廃屋の金貨
みるくジェイク
第1話
その少女は、町の外の川沿いに建つ家に、たったひとりの身内である叔父と暮らしていた。
叔父は町の大きな法律事務所で働いていたのだが、私生活は倹約を極め、少しでも金の浪費と思われることを嫌った。
そのため食事は質素で、小さな家はぼろぼろ、少女はいつも色褪せた服や靴下を、繕ったりつぎをあてたりしながら着ていた。
少女は生まれつき心臓が弱かった。学校はほとんど行かず、外へ働きに出たこともなかった。
調子がいいと、家をすみずみまで磨き上げたり、野草や茸をとってきて食卓に加えたりする。
そして叔父がごくたまに町の古本屋から買ってきてくれる数少ない本を繰り返し読み、宝探しや航海など、冒険の夢をみるのが唯一の楽しみだった。
ある日、この叔父は事務所から帰る途中、石段から転げ落ちて頭を打った。同僚が近くの町医者を呼んだが、まもなく死んでしまった。かねてからの当人の希望で葬儀屋は呼ばれず、その遺体は大学病院の解剖実習室に売られた。
ひとりになった少女は、毎日ぼんやりと窓の外をながめていた。
もう外から帰ってくる者もない。食事を用意する気力もなくなった。
(ここにいても仕方がない。町へ行って、メイドにでもなるしかない。それとも修道院に入るかだわ。まずこの家を売って旅費にしよう)
彼女はようやく腰を上げると、庭に出て、水を汲む。細く青白い手足をあぶなっかしく動かして、ふらふらとバケツを運び、家の掃除を始めるのだった。
気がつくと、その日は彼女の誕生日だった。家の中にひとつだけある、曇った鏡を磨きながら、彼女は心の中で呟いた。
(ああ、あたしも十八歳になるのだわ。誰も祝ってはくれないけれど)
叔父の部屋の床をモップで拭いていると、床の羽目板の一部が浮いているのが見えた。
(おや、ここも壊れてしまった)
その部分を押し戻して、せめて目立たないようにしようといじっているうち、板が一枚、そっくり外れてしまった。
床下に金庫があるのが見えた。
彼女は心臓をどきどきさせながら手を触れた。
(おじさまったら、こんなところになにを隠していたのかしら。昔の恋文かしら?)
と、そう思うと同時に、少女の脳裏にはもう、恋文の内容や、共に暮らさなかった理由、相手の女性の容姿までが幾とおりも浮かんでは消えた。
金庫の蓋には鍵がかかっていたが、鍵ならすでに見つかっていた。病院から返されてきた叔父の所持品の中に、紐のついた小さな鍵があったのだ。
医者によると叔父は首に下げたその鍵を、最後の瞬間まで十字架のごとく握り締めていたという。
(そうよ、きっとこれの鍵だったんだわ)
こうなるともう、中を見ずには気がすまない。少女は後ろめたさと期待にぶるぶる震える手で鍵を開いた。
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