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「今朝来た時は、人が沢山いたけど……」


「神子様がいらっしゃると告知されていましたから、特別に通したんです。ここは国の中心でもありますから、地位のある方でないと基本は入れないんですよ」


「じゃあ、これから向かう学園の方も?」


「ええ、神子専用の教育機関ですからね。私のような預言官も、通うことを許されています。生徒の中では一割にも満たない例外ですけど」


「ふむふむ」


 あんまり特別扱いはされない……のだろうか?

 広場へやってきた時と同レベルの喧騒さえ無ければ、個人的には大満足である。いきなり訪れた新生活なんだし、平和に過ごせるのが一番なんだから。


 しかし歩いていく最中、まったく注目を受けないわけにはいかない。権力者と思わしき人達が、何度も挨拶に訪れてきた。


「これは神子様! お初お目に掛かります。私は――」


「神子様はお忙しいので、後にしてください。もしくは日が沈んだ頃、神殿の方でお願いします」


「む、これは失礼……」


 などと。シビュラは名も知らぬ人々に、毅然とした態度で接していた。

 彼女の苦労もあって、勢い任せに近付いてくる人は減っていく。背後に神殿の姿が見えなくなった頃には、遠目に一礼される程度まで抑えられていた。


「ありがとうシビュラ、助かったよ」


「いえいえ、お安いご用です。……せっかく神子様との初登校なんですから、邪魔者には消えてもらわなければ」


「……」


 小声で彼女は言ってるけど、ばっちり聞こえてます。

 どう反応するべきか迷った挙句、無視を貫くのが一番だと判断する。シビュラもシビュラで、聞こえていたら恥ずかしいだろうし。


 道は徐々に、同じ学生服の少年少女で溢れ始める。

 こうなるとシビュラの道案内も意味が薄れ出した。向こうにそれらしい建物も見えているし、流れに沿うだけで到着するだろう。


「ところで神子様、好みの女性についてですが」


「え、いきなり?」


「はい、参考程度に教えてください。個人的な推測としましては、清楚な預言官でつきっきりお世話をしてくれる美少女だと考えますが、当たりですか? 当たりですね?」


「すっごく答え辛いんだけど……」


 この場で告白しろと迫られているようなもんだ。……彼女の推測については、あながち外れじゃないけれど。


 なんだか今夜が怖いような楽しみなような。シビュラは深い関係になることへ抵抗が無いようだし、冗談抜きで色々とすっ飛ばすかもしれない。

 下から見上げてくる少女の瞳に、抵抗も許されず吸い込まれる。


「――ま、私が焦らずとも大丈夫ですよね。これからは近くにいるんですから、ゼウス様の加護で確実に……ぐふふ」


「あ、あの、シビュラさん?」


「他の女性を引っ掛けてくる可能性については、十分考慮しなければなりませんね。人妻だろうと関係ないでしょうし。やはり既成事実が……」


 こっちのことは完全に放置して、彼女はブツブツと作戦を練っていた。

 校舎が近付くにつれて、人の密度も上がっていく。自分の世界へ入りっぱなしなシビュラが、他の生徒とぶつかりそうで危なっかしい。


 実際、彼女の進行方向は徐々にずれている。俺の方も合わせてみるけど、人のいる場所に突っ込みそうなのは変わらなかった。

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