第82話 思い出せない…そんなことない
子供の頃…嫌な思い出しかない。
楽しいことは無かったのかな…そんなことはないはず。
ただ…貧乏で、家族の仲が悪かっただけ…それだけ…。
親戚…家族を除けば、それなりに…そうでもない…。
卑屈な子供だったと思う。
今も…いまだに…。
今日も夢に階段が出てきた。
団地の階段を、オレンジのレインコートを着た女の子を追いかける…遊んでいるわけじゃない…必死だ…6階まで登ると見失った。
僕は、階段を下りだす…今にも消えそうな蛍光灯がジジジッと音を立てて瞬いている。
1階まで降りると、外は小雨、入口に植えてある木の下に黄色いレインコートを着た女の子がフードをスッポリと被ったまま傘を差さずにユラユラと足踏みしている。
「アレは近づいてはいけない…」
僕は本能的に恐怖を感じた。
黄色いレインコートの女の子が、下手くそな人形師に操られたようにギクリ…シャクリと近寄ってくる…。
階段を登ることは出来ない…なぜだか解らないが上には、もっと恐ろしいナニカがいるようだ。
階段の裏側でしゃがみこむ…ビチャリ…ビチャリと足音が近づいてくる…。
そこで目が覚めた。
時刻は3時過ぎ…最後に時計を見たのが1時過ぎ…こんな夢を見ては目を覚ます。
これを明け方まで繰り返す…。
もう何年も…。
階段…雨…消えそうな蛍光灯…小さな女の子、これは僕の夢に、よくでてくるワードだ。
きっと…子供の頃の記憶の断片なんだろう。
それは、子供の頃の不安を感じたキーワードなのだと解釈している。
具体的に何があったか思い出せないが…。
どこでも寝れるが…眠りは浅い。
なぜ…こうなったのだろう…。
その理由すら思い出せない。
きっと、なにかを間違った…。
そんなことないよ…だから出会えた…。
彼女は、僕にそう言った。
失職したから…逢えて…いま、こうなれた。
そうかもしれない…彼女の言うとおりかもしれない。
それが幸せか否かは問題じゃない。
僕は、彼女を愛してしまったのだから…。
『恋』は幸せを運ぶとは限らないのだ。
いや…幸せを探すことを義務づけられたとでもいったほうがいいのかもしれない。
皮肉…身体を売り物にしている嬢に恋をすることで、その身体に触れられなくなるのだから…。
もし…彼女と夜を共にして眠れる日が来るのだとしたら、僕は、彼女の横でどんな夢を見るのだろう…。
いや…眠れるだろうか…上手く…上手に…。
今夜もきっと…夢を見る…何に怯え…何を探し…何処へ向かう…迷う…遅れる…。
夢でも僕は独り…そう…寝ても…覚めても独り…。
夢でも…現実でも…彼女は僕の隣にはいない…。
変わらないのかもしれない…どちらでも…どちらがリアルでも構わない。
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