第77話 変わらない生活

 もし、金があれば?僕は彼女を嬢として呼ぶのだろうか…。

『逢いたい』と『抱きたい』は違う。

 僕は彼女をどうしたいのだろう…。

 正直に言えば、解らないのだ。


 僕が彼女に逢えるのは、送迎のときくらい…つまり僕の『逢いたい』は『送りたい』になってしまう…。

 送りたいわけがない。

 他の男に抱かせるために、僕は彼女に食事を奢り、事務所まで見送るのか…。

 そんな風に考えると嫌気が差す。

 僕のことを知っている友人は、だからバカだと僕を諭すのだ。

 そう…バカ…。


 利口な男ならどうするのか?

 送迎にお金を要求する、SEXしてから事務所に送る、そんなところだろう。

 実際、そういう男はいる。

 スタッフにも、客にもだ。

 それが普通の関係だとも思う…「風俗嬢と付き合いたい」という男は、そういうメリットを求めているのだから…。


 利口な嬢は?

 そういう男の下心を見抜いて、恋を匂わせ、もう一歩でそうなれる…という状況を長く持続させる。

 都合よく使って、男が諦めれば、次の男を探せばいいのだ。


 冷静に考えれば、僕は利口な嬢に使われているということになる。

 店では呼ばないのだから客ですらない僕は、送迎と1食分の節約くらいにしか使い道がない。

 だから…バカだと言われる。


 気づいている…。


 今日も、僕は彼女を送るかもしれない。

 彼女の友人『メンヘラ』と食事をして送ってもらう予定だけど…この天気だからアテにならない。

 キャンセルになった場合の予防線だ。

 友人か恋人か客なのか、男か女かも解らない『メンヘラ』の次席…。

 それが今の僕だ。


 解っている…。


 だから周りにバカだと言われる。

 当然だ。

 実際に僕は賢くは無い。

 さかしいだけ…。


 だから今日の予定は彼女からの連絡待ち。

 彼女が起きて、『メンヘラ』と連絡して、それから決まることになる。

 行くか、行かないのか解らないので準備だけはしているわけだ。


 遠足の準備をしつつ、授業の場合も考える。

 そう、小学生の頃から、こういう状況には対応できるように教育されている。

 それが役にたっているわけだ。

 連絡網を待てばいい…僕は最後だから解ったと先頭に返せばいいだけ…。


 彼女の『会いたい』は、僕の『逢いたい』とは違う。


 きっと、そのズレは想いのズレ。

 冷静になれば解ること。


 何を言っても無駄…それがバカという生き物だ。

 付ける薬が無い。

 手の施しようがない…だから自分で治癒するしかないのだ。


 治るとはどういうことだろう…。

 彼女と逢わないこと。

 あるいは、僕が彼女を利用すること。


『金』と『快楽』だけでは満たされない…。

 僕は…自分の望むものが解らないまま…ただ…彼女からの連絡を待つ。

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