第76話 不倫で得たもの

『不倫』とは真実の愛だという人がいる。

 不実だと知りながら、その感情を抑えられないほどの愛だから…。


『不倫』とは偽りの愛だという人がいる。

 現実の生活から逃げているだけの、まやかしの愛だから…。


 僕は…どちらでもなかった…。

 愛していたし…実らないことも知っていた…。

 それは僕が独身だったからかもしれない、人妻に興味があったわけではない…。

 ただ…想いが募って…打ち明けて、抱きしめただけ…。


 彼女は僕と違って行動的な女性だった…。

 僕を、色々な場所へ誘った。

 それは、僕が知らなかった世界…彼女と付き合っていなければ、今も触れることは無かった世界。

 でも…いつしか外出を控えるようになっていく…。

 それは他人の目。


 僕達は人目を避けるように、僕のアパートで過ごす時間が多くなっていった。

 外で手すら繋げないような関係。

 僕達は、それを肌を重ねることで埋めていた。


 年月が経つと、彼女は友人と出かけるようになり…僕との時間は後回しになっていく…。

 逢っても部屋の中…DVDを観て肌を重ねるだけ…。

 彼女にとって、僕は退屈しのぎだったのだと思う。

 刺激が足りなくなった…。


 旦那と映画を観た後に、友人と会うと言って僕と逢う…。

 僕は、そんな扱いに嫌気が差していた。

 つねに、家族の後…旦那の後…僕は彼女の1番にはなれない…。


 その現実が、僕を苦しめた。

 解っていた…彼女は母であり、妻であり、女でもある。

 最後に彼女が選んだのは、母親という自分だった。

 彼女の娘の出産を期に、彼女は女から母に戻ったのだ。


 そう、僕が愛していたのは女としての彼女…。


 彼女と別れる、少し前から風俗を利用するようになった。

 SEXはしない…建前だ…僕は幾人もの女性を抱いた。

 抱いても…抱いても…満たされることは無い…。

 本名も知らない彼女達の話は、僕の心を少し満たしてくれる。

 SEXより、彼女達との会話を愉しんでいた、そんなせいだろうか、嬢達には好かれていたようだ。

 個人的に会う嬢も出来て、普通のデートを愉しんだ、もちろんお金は払わない。

 飲食で務める嬢は、自分の勤め先まで教えてきて食べに来いという嬢もいた。

 嬢が昼間の仕事を終えるのを待ってホテルへ行く。

 そんな生活が続いた。


 今の彼女よりは普通にデートをしていた。

 不思議なことに、美人ほど、そういうガードが緩いように思う…。


 今の彼女に出会って…僕の中で何かが変わった…。


 不倫も終わり、独りになって…他の嬢と逢わなくなった。

 不倫は何も僕に残さなかった。


 そして今、僕はまた不自由な恋をしている…。

 今も、僕は誰かの次で、何かの後…。


 結局…同じことを繰り返している…。

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