第56話 眠れるということ

彼女は仕事が終わるとメールを送ってくる。


とりあえずは何も起こらなかったということだ。

そのメールが届くと、僕は眠る。

今日という日が終わる。


目覚めれば、また今日になっているだけ…それだけのための眠り。

浅い…浅い…眠り。


よほど仕事が忙しくない限り、彼女は僕にメールを送り続ける。

それは、僕のため…自分のため…。


僕は子供の頃から、眠るのが下手だ。

父親の眠りを妨げると殴られるから…。

身体を曲げて、隅で眠る癖が付いている。

どんな広いベッドでも、自然と身体が隅っこへ行く。

そのかわり、僕は、どこでも眠れる。

自分が眠ろうと思えば、どこでも仮眠がとれる。

でも…眠りはとても浅い。


会社でも、昼休みに数十分だけ熟睡する。

というより、意識が途切れるように、ガクンと眠りに堕ちる。

そう、文字通り、墜ちるような感覚。


眠れないわけではない…。

彼女が心配で、というわけでもない…。

ただ眠るのが下手なだけ。


浅い眠り…いつもの孤独な夢。

色んな夢を見るが…共通しているのは、『何かを探す』・『どこかで迷う』そんな夢が多い気がする。

今日は、会社の飲み会だが誰にも声を掛けてもらえず、開始の時間に遅れた、自分がどこに座っていいか解らずに、うろうろと店の中を歩く、時折、空いてる席に座ろうとするが、拒まれ、嫌な顔をされるという夢だ。


こんな夢ばかりを見続ける…。


眠っても…自分の目には『暗』しか映さない。

夢くらい、自由に見させてくれても…。

でも、そうなったら僕は、現実に戻らなくてもいい、そんな風に思うだろう…。

夢でも彼女に逢えない…現実でも逢えない…。

でも、夢を、好きな夢を見れるのなら…彼女の夢を見たい。

それができないから…僕は、今日も目を覚ます。


彼女に逢いたいから…。


彼女は僕にメールを送る、僕が安心して眠れるように…。

平気だよ…大丈夫だよ…と微笑むように…。


こんな仕事でゴメンね。

いや…こんな僕でゴメンね。


いつか…許されるなら、彼女の隣で眠ってみたい…。


そんな想いを抱きながら、僕は目を閉じる…。

叶わぬ夢…かもしれない。


冷たいベッドで身体を丸め…隅っこで…壁に、へばりつく様に…。


いつからだろう…楽しい夢を見れなくなったのは…。

眠ることすら苦痛に感じるようになったのは…。


自分が嫌いな僕は…自分の一番嫌な部分を夢で見る。


全ては自分のせい…。

自分を好きになれない僕のさが

あるいはとが


もし…子供の時代の僕に伝えられるなら…。


「お前の未来は苦痛しかない…」

そう教えてあげたい…そうすれば、バカな夢など思い描かないはず…。

希望など…ココにはないのだから…。


見上げるなよ…足元だけ…見ていればいい…。

ソコがお前の未来…上には何も無い…。

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