第55話 最後の客

 彼女からのメールが途切れた。

 時間的に、ストーカーに呼ばれたのだ。

 彼女の話だと、出勤時間の最後に予約するらしい。

 きっと、彼女の送迎をしたいのだろう。

 もっとも、店側から、それはダメだと言われているそうだから、彼女が店に黙って頼まないかぎりできないようだが。


 彼の存在も、僕の悩みの種だ。

 アパートの前で見張っていたり、掲示板で彼女の情報を集めたがる。

 彼の書き込みで、有ること無いこと、書かれまくる。


 NGにすると、ストーカー行為がエスカレートしそうで怖い、だから自分に興味が無くなるのを待つと言って、客としては扱っているとのことだが、それはそれで心配でもある。

 金が尽きれば、きっと無茶をするであろうことが解るから…。

 結局、ホテルの室内、あるいは車内では、誰も彼女を守れないのだ。


 僕が怖いのは…彼女に何らかの被害が及ぶことじゃない。

 もちろん、それも嫌なのだが…それを知った僕の行動が自分で怖い…。


 よく、キレたなどと口にする奴がいるが、それはまだ、冷静な部分が残っている状態だ。

 僕は、昔、ソレを超えた怒りを感じたことがある。

 それは怒りじゃない…とても冷静になるのだ。

 僕は、その時の自分が怖い。


 できれば、警察に相談するなり、なんらかの行動をしてほしいのだが、彼女はソレを嫌がる。

 身元バレや仕事バレしたくないと言うが、きっと面倒くさいのだと思う。

 誰かが何とかしてほしい。

 それが本音だろう。


 彼女の話を聞いていると、きっと何か起きるのは、そう遠くないと思っている。

 それほどに、彼も追いつめられているように感じる。


 正直、店のスタッフなど警察沙汰に、自分から飛び込むはずもなく、彼女のことなどは考えているわけはない。

 考えているのは、自分が出勤の日に問題起こさないでほしいなと思っているだけ。

 彼女のプライベートな時間に事が起きればいいと思っているはずだ。


 危機感がない。

 だから本名を客に話したり、客に送迎させたりするのだ。


 僕の時もそうだ…。

 そうでもなければ、こういう関係にもなっていないだろうが…。

「桜雪ちゃんが変わっているんだよ、知りたいと思わないなんて」

 そういうが、だからといって、自分から話すものなのだろうか…。

 正直、僕は未だに、どこかで何割かは聞いてる名前が、本当ではないと思っている。


 事務所のスタッフに電話で彼女のことを聞きまくるような異常者。

 彼女と結婚するつもりで、自分の両親に彼女のことを話したとも聞く、店側も金が続くうちは騙しだまし吸い取るつもりらしいが、被害に遭うのは彼女自身だ。


 店は守ってくれない。


 ただ、異常者のもとへ送り出すだけ…。


 そして今夜も、異常者のもとへ行ったのだろう…。

 僕の心配は尽きない。


 いつか、この妄想が現実になるのではないかと…。


 彼女が住む世界は、そういうことが起こり得る場所なのだ。

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