第44話 今度

 一晩中、メールしていた。

 いつの間にか年は明け、私は、コンビニに買い物に行った。

 時間にして11時間、僕達はたわいもない、やりとりを繰り返した。


 眠ったような…起きていたような…夢現ゆめうつつのまま、新年の朝を迎えた。


 12時過ぎに、「あけおめ ことよろ」(死語)だね。

 そんなメールが届いた。

 桜雪ちゃんが「あけおめ ことよろ」って言うの聞きたいよ。

 僕は、今度逢ったら言うよ、と返した。

『今度』って嬉しいよ。

 そう…今度逢ったら…。

 何日とは決めてない。

 でも、それでいいと思う、いつ逢えるんだ、なんで逢えないんだと、お互いを窮屈にするより曖昧な『今度』という感じでいいんだと思う。


 逢いたいと思う…思えるのは、今、その瞬間、逢えていないということ。


 逢わなければ良かったと思うより、ずっといい。


 逢いたいって気持ちは、きっと特別な感情だ。


 別れても、すぐまた逢いたくなる…。

 それは、満足してないから、満足してないから『今度』と思える。


 いつ訪れるかわからない…今度…。


 寂しさもある。

 羨ましさもある。


 色んなネガティブが僕を悩ませる…。


 彼女は、僕のために予定は割かない。

 僕に逢うのは、送迎のついで…。

 これは事実だ。

 でもこれは、僕の視点から見ているだけ…。


 彼女からの視点からは違うのかもしれない。


 彼女の気持ち…真意など、僕には解らない…。

 今までも…これからも…。


 それを悲しいとも思う。

 ツライとも…。


 それでも…好きだから…ただ逢いたくて…愛おしくて…。


 自分の誕生日に、久しぶりに彼女を店で呼んだ。

 結局、空しくて…僕は2度と店では呼ばないと決めた。


 客として見られたくない…。

 それは、彼女にとって迷惑なのかもしれない。

 ただの客のほうが会いやすいのかもしれない。


 ストーカーにも送迎はさせていたようだ。

 それが、結局、その男をストーカーにさせたという見方もできる。

 店からも客を送迎に使った彼女が悪いということで、対応しにくくなっている。


 そういう状況で、僕のような存在は便利だろう。

 僕が、過ぎた好意を持たなければ…。


 僕は、それを出さないだけ…その好意を押し込んでいるだけ…。

 きっと、僕がツライのは、彼女に逢えないことではなく、気持ちを出せないことがツライのだ。


「愛しているよ」

 時折、抑えきれずに口にしてしまう…。

 彼女は、黙って頷く…。

 それは、

「解っているよ…でも応えられなくて、ごめんね…」

 そんな風に思える。


 そう…僕が彼女の鎮痛剤ペインキラーであるならば…使わないに越したことはない。

 薬なんて頼らないほうがいいのだから…。


 だから…今度なのかもしれない…。

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