第39話 迎えに行くよ

 今夜、コンパで出勤する彼女からメールが届いた。

 迎えに来るのか、来ないのか、それだけでも返信してくれ、という内容。


 何も無ければ、迎えに行くことになっていたから。


 別に薬を買いに行かされたことが不愉快なんじゃない。

 ただ…僕はなんなんだ…その答えが欲しいだけ…。


 恋人であれば、それはなんでもないこと。

 僕は、彼女にとってなんなんだろう…それが解らないから、恋人に頼むようにメールを送ってくるから、自分が…彼女が解らなくなる…。


 僕が断れば、別の誰かに頼む、それだけのこと。

 僕が一番、頼みやすいだけ。

 僕が一番、馬鹿なだけ。


 僕には『愛』が解らない…。

 子供の頃から…あまり触れたことが無いから…。

 向けられると…拒むように逃げ続けてきたから…。


 だから、僕には『愛』が解らない、愛し方が解らない。

 あるいは、彼女は僕に『愛』を向けているのかもしれない。

 だけど、僕にソレは届かない。


 彼女の望む『愛』とはなんだろう。

 恋人を結びつける『愛』だろうか…。

 親が子に注ぐ『愛』だろうか…。


 僕が望む『愛』とはなんだろうか。


「迎えに行くよ」

 僕がメールを送って…しばらく返信が無かった。

 迷惑なのかもしれない。

 気まずいままの車中の居心地はいいはずがない…。

 なんなら来なくてもいいよ、そんなうふうに解釈したほうが良かったのだろうか…。


 僕は、いつも明後日の方向へ走る。

 彼女にとって僕は、相手するのが疲れる面倒くさい男なのかもしれない。

 ストーカーとは、いまだに会っているようだ。

 店を通してだけ…とは思ってない…。

 書き込みにチラホラそんなことを連想させるくだりがある。


 あるいは今日も、僕と彼を天秤に掛けているのかもしれない。


 なぜ…僕は、迎えにいくのだろう…。

 逢いたいのかな…。

 逢えば、少し楽になれるのかな…。


 ただ、僕の住む町から、彼女の実家へ送るだけ。

 片道1時間ほどの明け方のドライブだ。


 帰りは独り…。


 僕は、彼女を送った後、どんな顔をして、何を考えているのだろう…。

 笑えてる…哀しんでいる…。


 僕が大切にしている彼女。

 護りたくて、握りしめれば手に刺さるガラスのようだ。

 でも…刺さる度に、奥へ…奥へと…食いこむように、僕の身体に深く…深く…突き刺さる。

 痛くて…痛くて…時に血を滲ませながら。

 抜こうと思って、指で触れてみるけれど…その指に力が入らない…。

 ダイヤじゃないんだ…ただのガラス玉。

 傷だらけのガラス玉…ただのイミテーション…。

 それでも…僕は…掌のガラス玉を…。

 その破片かけらのひとつ、ひとつを零さぬように…握りしめる。

 ただ…痛みが残るだけなのに…。

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